身近な方が亡くなったとき、葬儀の費用をどう工面すればいいのか分からず、途方に暮れてしまう方は少なくありません。生活保護を受けている方が亡くなった場合や、葬儀を行う側に費用を出す余裕がない場合、生活保護には「葬祭扶助」という仕組みが用意されています。
本記事では、生活保護法第18条と厚生労働省の告示(令和8年4月1日から適用されている最新の基準)にもとづいて、葬祭扶助でいくら支給されるのか、誰が申請できるのか、どのような葬儀ができるのかを順を追って解説します。
なお、インターネット上の解説記事には206,000円・209,000円といった過去の金額が数多く残っています。本記事では厚生労働省の告示本文を直接確認し、現行の金額を掲載しています。
葬儀は待ってくれません。申請のタイミングを含めて、まず全体像をつかんでください。
葬祭扶助とは | 生活保護が葬儀の費用を支える仕組み
葬祭扶助は、生活保護法が定める8つの扶助のうちの1つです。困窮のため最低限度の生活を維持することができない方に対し、葬儀に必要な費用が支給されます。
法律が支給の対象として挙げているのは、次の4つの範囲です(第18条第1項)。
| 対象 | 内容 |
|---|---|
| 検案 | 医師が遺体を調べ、死亡を確認すること |
| 死体の運搬 | 遺体を安置場所や火葬場へ運ぶこと |
| 火葬または埋葬 | 火葬料など |
| 納骨その他葬祭のために必要なもの | 骨壺、必要最小限の葬祭用品など |
葬祭扶助は金銭給付が原則です(第37条)。ただし実務では、福祉事務所から葬儀を担当した事業者へ直接支払う運用をとる自治体が多く、申請した方が費用を立て替えずに済むケースが一般的です。取扱いは自治体によって異なるため、申請時に必ず確認してください。
葬祭扶助の支給額 | 大人222,000円・小人177,600円が上限
まず結論からお伝えします。葬祭扶助の基準額は次のとおりです(令和8年4月1日時点)。
| 級地 | 大人 | 小人 |
|---|---|---|
| 1級地および2級地 | 222,000円以内 | 177,600円以内 |
| 3級地 | 194,300円以内 | 155,400円以内 |
ここで大切なのは「以内」という表記です。これは定額で支給される金額ではなく、上限です。実際にかかった費用がこの範囲に収まる場合は、かかった額が支給されます。
葬祭扶助の級地は2つの区分しかない
生活保護の級地区分は、用途によって細かさが変わります。この違いを取り違えると金額を誤ります。
| 用途 | 区分の数 |
|---|---|
| 生活扶助の第1類 | 6区分(1級地-1〜3級地-2) |
| 住宅扶助の上限額 | 3区分(1級地・2級地・3級地) |
| 母子加算・障害者加算など | 3区分 |
| 葬祭扶助 | 2区分(1級地および2級地 / 3級地) |
つまり葬祭扶助では、1級地と2級地は同じ金額です。「1級地-2だから2級地の金額」といった読み替えは必要ありません。
級地は、亡くなった方が住んでいた場所ではなく、葬祭を行う場所(葬祭地)の級地で判定されます(厚生労働省社会局長通知)。故郷に遺体を運んで葬儀を行う場合など、住所地と葬祭地が違うときは注意してください。
基準額に上乗せできる2つの加算
かかった費用が基準額を超える場合に限り、次の2つの加算があります。
火葬料の加算は、葬祭地の市町村条例が定める火葬料が、1級地・2級地では大人600円(小人500円)、3級地では大人480円(小人400円)を超えるとき、その超えた額が基準額に上乗せされます。公営の火葬場でも数万円かかる自治体があり、実質的にはこの加算で吸収される形になります。
遺体の運搬費の加算は、28,460円から1級地・2級地では19,220円、3級地では13,630円を差し引いた範囲内で上乗せされます。上乗せの上限は、1級地・2級地で9,240円、3級地で14,830円です。
葬祭扶助を申請できる人 | 2つのルートがある
「故人が生活保護を受けていなければ使えない」「遺族が受給者でなければ使えない」と思われがちですが、どちらも正確ではありません。法律は2つの入口を用意しています。
ルート1:葬儀を行う方自身が困窮している場合
第18条第1項は、困窮のため最低限度の生活を維持することができない方に対して葬祭扶助を行うと定めています。生活保護を受けている方が親族の葬儀を行う場合などが、これにあたります。
このルートでは、亡くなった方が生活保護を受けていたかどうかは問われません。判断されるのは、葬儀を行う方の状況です。
ルート2:故人に葬祭を行う扶養義務者がいない場合
第18条第2項は、次の2つの場合に、実際に葬祭を行う方へ扶助を行うことができると定めています。
- 生活保護を受けていた方が亡くなり、その方の葬祭を行う扶養義務者がいないとき
- 亡くなった方に葬祭を行う扶養義務者がなく、遺した金品では葬儀費用をまかなえないとき
2つ目にあてはまれば、亡くなった方が生活保護を受けていなくても対象になり得ます。家主や知人など、親族以外の方が葬儀を行う場合を想定した規定です。
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葬祭扶助でできる葬儀の中身 | 含まれるもの・含まれないもの
法律が挙げているのは、検案・遺体の運搬・火葬または埋葬・納骨その他葬祭のために必要なものの4項目です。通夜や告別式そのものは、この4項目に含まれていません。そのため、葬祭扶助を使う葬儀は火葬を中心とした簡素な形になります。
| 含まれるもの | 含まれないもの |
|---|---|
| 遺体の搬送・安置 | 通夜・告別式の式場費用 |
| 棺、骨壺などの必要最小限の用品 | 僧侶による読経、戒名 |
| 火葬料 | 祭壇、生花、遺影 |
| 死亡診断書・死体検案書の費用 | お墓・納骨堂の購入費用 |
| 納骨に必要な費用 | 四十九日などの法要、参列者への飲食接待 |
なお、基準額を超える部分を自費で上乗せする形は、原則として認められないとする運用が一般的です。「扶助で足りない分は自分で払って、もう少し立派な葬儀に」という組み立てはできないと考えておいてください。取扱いは自治体によって差があるため、希望がある場合は申請前の相談時に伝えることをおすすめします。
申請の流れ|費用を支払う前に福祉事務所へ相談する
多くの解説記事が「葬祭扶助は葬儀の前に申請しなければならない」と書いています。実は、厚生労働省の告示や通知に、そうした期限を定めた明文の規定は見当たりません。
ただし、事前に相談・申請すべきであることは変わりません。理由は制度の組み立てにあります。第18条第2項は「遺した金品では葬儀費用をまかなえないとき」を要件としており、生活保護全体も、利用できる資産や能力を活用してもなお足りない場合に適用される制度です(第4条)。葬儀費用をすでに支払えたという事実は、要件を満たさないという判断につながり得ます。
実際の手順は次のとおりです。
- 亡くなった事実を福祉事務所に伝え、葬祭扶助を利用したい旨を相談する
- 必要書類を確認し、申請する
- 福祉事務所が要件にあてはまるかを審査し、結果が通知される
- 適用が確認できてから、葬儀の手配を進める
申請の窓口は、葬儀を行う方の居住地の福祉事務所となるのが基本ですが、親族以外の方が葬儀を行う場合など、状況によって異なることがあります。まず電話で問い合わせて、どこに何を持って行けばよいかを確認してください。判断に迷って手続きが遅れることが、いちばんの不利益になります。
葬祭扶助で間違えやすい5つのポイント
1. 検索で出てくる金額が古い
「206,000円」「209,000円」といった金額を載せているページが多数あります。これらは過去の告示の金額です。基準額は改定されており、令和8年4月からは大人222,000円以内(1級地・2級地)です。金額を確認するときは、いつ時点の数字かを必ず見てください。
2. 級地を故人の住所地で判定してしまう
前述のとおり、判定されるのは葬祭を行う場所の級地です。
3. 大人と小人の境目を「12歳」と思い込む
多くの解説記事が「12歳未満は小人」と書いていますが、国は年齢で一律の線を引いていません。厚生労働省の保護課長通知は、火葬料などについて市町村条例に区別の定めがあればそれにより、条例がない場合はその地域の慣行によるとしています。境目が気になる年齢のお子さんの場合は、窓口で確認してください。
4. 香典の扱いを確認しないまま受け取る
香典を受け取った場合、その取扱いは福祉事務所の判断によります。金額や事情によって結論が変わるため、受け取った場合、あるいは受け取る見込みがある場合は、必ず申告して指示を仰いでください。
5. 「以内」を「必ずもらえる額」と読む
基準額は上限です。実際にかかった費用がそれを下回れば、支給されるのはかかった額です。
葬祭扶助が使えないときに確認したい公的制度
要件にあてはまらなかった場合でも、公的な給付が受けられることがあります。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 国民健康保険の葬祭費 | 亡くなった方が国民健康保険に加入していた場合、葬儀を行った方に支給されます。金額は自治体の条例で定められており、地域によって差があります。お住まいの自治体の保険担当窓口にご確認ください |
| 後期高齢者医療制度の葬祭費 | 75歳以上の方などが対象です。神奈川県の場合は5万円が支給されます |
| 健康保険の埋葬料 | 会社の健康保険に加入していた方が亡くなった場合に支給されます |
いずれも申請先は葬祭扶助とは別の窓口(保険年金担当など)です。葬祭を行った日の翌日から2年を過ぎると時効となり、申請できなくなります。
なお、これらの給付を受け取った場合、生活保護を利用している方は収入としての取扱いが問題になることがあります。受給が決まった時点で福祉事務所に申告してください。
よくある質問
- Q亡くなった方が生活保護を受けていなくても、葬祭扶助は使えますか。
- A
使える場合があります。葬儀を行う方自身が困窮している場合(第18条第1項)や、亡くなった方に葬祭を行う扶養義務者がなく遺した金品では費用が足りない場合(第18条第2項)が対象です。
- Q遺族が生活保護を受けていなければ対象外ですか。
- A
そうとは限りません。亡くなった方に葬祭を行う扶養義務者がいない場合、親族以外の方が葬儀を行うケースでも対象になり得ます。
- Q支給額は住んでいる地域で変わりますか。
- A
変わります。1級地・2級地は大人222,000円以内、3級地は大人194,300円以内です。判定は葬祭を行う場所の級地によります(令和8年4月1日時点)。
- Q通夜や告別式を行うことはできますか。
- A
葬祭扶助の対象は検案・遺体の運搬・火葬または埋葬・納骨などに限られており、通夜や告別式の費用は含まれません。火葬を中心とした簡素な形になります。
- Qお墓や納骨堂の費用は出ますか。
- A
出ません。納骨に必要な費用は対象ですが、お墓や納骨堂を購入する費用、四十九日などの法要の費用は対象外です。
- Q葬儀が終わってからでも申請できますか。
- A
費用をすでに支払えたという事実は、要件を満たさないという判断につながり得ます。支払いの前に福祉事務所へ相談してください。
- Q香典を受け取った場合はどうなりますか。
- A
取扱いは福祉事務所の判断によります。受け取った場合、または受け取る見込みがある場合は、必ず申告して指示を仰いでください。
まとめ
葬祭扶助は、生活保護法第18条にもとづいて葬儀に必要な費用を支える仕組みです。基準額は1級地・2級地で大人222,000円以内、3級地で大人194,300円以内(令和8年4月1日時点)。級地は2区分しかなく、判定は葬祭を行う場所によります。対象は「葬儀を行う方が困窮している場合」と「故人に葬祭を行う扶養義務者がいない場合」の2つのルートがあり、亡くなった方が生活保護を受けていたかどうかだけで決まるわけではありません。
費用を支払う前に福祉事務所へ相談することが、いちばん大切な行動です。判断に迷ったまま時間が過ぎてしまうことが、最も避けたい事態です。
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