「資格を取って働きたいけれど、受講料を払う余裕がない」「子どもの高校の費用が払えるだろうか」。生活保護を受けている方から、こうしたご相談をいただくことがあります。毎月の生活費で精一杯という状況では、将来のための出費はどうしても後回しになりがちです。
こうした場面で使えるのが、生活保護の8つの扶助のひとつである生業扶助(せいぎょうふじょ)です。就職に必要な資格の取得費用、高校の学費、就職が決まったときの服や靴の購入費まで、幅広くカバーします。
本記事では、生活保護法第17条および厚生労働省「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)別表第7を根拠として、生業扶助で支給される費用の種類・金額・申請の流れを解説します。金額はすべて令和8年(2026年)4月時点の告示実額です。
なお、生業扶助の金額は級地区分の影響を受けず、全国どこでも同じです。お住まいの地域を気にせずお読みいただけます。
生業扶助とは|就労と高校進学を支える3つの費用
生業扶助は、働いて収入を増やしたり、自立できる見込みがある場合に支給される扶助です。生活保護法第17条は、生業に必要な資金・器具・資料、生業に必要な技能の修得、就労のために必要なものの3つを支給の範囲として定めています。
生活費そのものを支える生活扶助や、家賃を支える住宅扶助が「今の暮らしを守る」ためのものであるのに対し、生業扶助は「この先の暮らしを良くする」ことを目的にしている点が大きな違いです。
支給される費用は、次の3つに分かれます。
| 区分 | 基準額 | 特別基準 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 生業費 | 47,000円以内 | 78,000円以内 | 小規模な事業の開業資金・仕事の道具 |
| 技能修得費 | 92,000円以内 | 154,000円以内 | 資格取得・職業訓練の費用 |
| 就職支度費 | 35,000円以内 | — | 就職時の洋服・靴などの購入費 |
さらに、高等学校等就学費が技能修得費の一類型として位置づけられています。高校に通うお子さんがいる世帯では、この高等学校等就学費が生業扶助の中心になります。
生活扶助や住宅扶助の金額は、お住まいの地域の級地区分によって変わります。しかし告示で級地区分が適用されるのは生活扶助・住宅扶助・出産扶助・葬祭扶助の基準額であり、生業扶助はその対象に含まれていないため、全国一律の金額となります。
高等学校等就学費|高校の学費が生業扶助から出る理由
「高校の費用なら教育扶助では」と思われるかもしれません。しかし教育扶助が対象とするのは義務教育、つまり小学校と中学校までです。高校の費用は教育扶助ではなく生業扶助から支給されます。
これは、高校を卒業していることが就職の前提となっている社会の実情を踏まえ、高校進学を「生業に必要な技能の修得」と位置づけたためです。高等学校等就学費は平成17年度に創設されました。
支給される項目と金額
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 基本額(月額) | 7,300円 |
| 学級費等(月額) | 2,170円以内 |
| 教材代 | 正規の授業で使う教材の実費 |
| 通学のための交通費 | 必要最小限度の実費 |
| 入学考査料 | 30,000円以内 |
| 入学準備金 | 118,200円以内 |
| 学習支援費(年額) | 101,000円以内 |
| 学習支援費の特別基準(年額) | 131,300円以内 |
| 災害等による学用品の再購入 | 36,500円以内 |
学習支援費は課外のクラブ活動にかかる費用です。合宿や大会参加の交通費・宿泊費が必要で年間上限額では足りない場合には、特別基準として131,300円以内まで認められます。
入学料と授業料は都道府県ごとに異なります
ここは特に注意が必要な点です。入学料と授業料には全国共通の金額がありません。
告示は「高等学校等が所在する都道府県の条例に定める都道府県立高校における額以内」と定めています。つまり金額はお住まいの都道府県によって異なります。市町村立の高校に通う場合は、その市町村の条例に定める額が基準になります。
授業料については、高等学校等就学支援金が支給される場合、生業扶助の対象外となります。就学支援金でまかなわれない場合や対象外の場合に、生業扶助から支給される仕組みです。ご自身の場合にいくら支給されるかは、必ず福祉事務所でご確認ください。
なお、高等専門学校の4年生・5年生については、授業料として年額457,200円以内が認められます。
技能修得費|資格取得・職業訓練にかかる費用と4段階の上限
技能修得費は、就職に役立つ技能や資格を身につけるための費用です。対象になるのは、技能修得のために直接必要な授業料(月謝)、教科書・教材費、受講者全員に義務的に課される費用、そして資格検定などに要する費用です。技能修得のために交通費がかかる場合は、実費が上乗せされます。
上限額は、状況に応じて4段階に分かれています。
| 状況 | 上限額 |
|---|---|
| 通常 | 92,000円以内 |
| 基準額では足りず、やむを得ない事情がある場合 | 154,000円以内 |
| 自立支援プログラムに基づき、1年間に複数回必要な場合 | 年額246,000円以内 |
| 専修学校等での技能修得・運転免許取得・指定教育訓練講座の受講 | 380,000円以内 |
最も高い380,000円が認められるのは、次の3つのいずれかに当てはまる場合です。
対象になるもの・なりにくいもの
技能修得費は資格の学校や講座だけに限られません。厚生労働省の通知では、自立支援プログラムに基づくなど福祉事務所が特に必要と認めた場合には、パソコンの基本操作といった就職に有利な一般的技能や、コミュニケーション能力などの就労に必要な基礎的能力を身につけるための費用も対象になるとされています。職場への適応訓練や、働く意欲を高めることを目的としたセミナーの受講費用も同様です。
一方で、健康管理や家事といった生活指導など、日常生活の質を高めることが主な目的の取り組みは対象になりません。技能修得費はあくまで就労を目指す取り組みに対するものと整理されているためです。
期間は原則1年以内
技能修得の期間は原則として1年以内で、1年を限度に支給されます。ただし世帯の自立更生に特に効果があると認められる場合は2年以内とされ、1年ごとに上限額の範囲内で認められます。
なお、身体障害者手帳をお持ちの視覚障害の方が、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の養成施設に通う場合には、2年を超える場合でも1年ごとに認められる例外が設けられています。
生業費と就職支度費|開業資金と就職が決まったときの費用
生業費(47,000円以内・特別基準78,000円以内)
生業費は、小規模な事業を営むために必要な資金や、仕事に使う器具・資料にあてる費用です。基準額では足りないやむを得ない事情がある場合は、78,000円以内まで認められます。
同じ世帯の2人以上が、それぞれ別の事業計画で申請することも制度上は可能です。ただし世帯の収入増加と自立に本当に役立つかどうかが個別に判断されるため、事業計画の中身が重要になります。
就職支度費(35,000円以内)
就職支度費は、就職が決まった方が、働き始めるために直接必要な洋服類や履物などを買う費用です。求職活動のために必要な洋服類・履物についても、福祉事務所が必要と認めれば対象になります。
就職時と求職活動時のどちらも認めてもらうことは可能ですが、購入費用の合計額は35,000円の範囲内とされています。また、初任給が支給されるまでの通勤費についても、当座の資金がない場合に限り、交通費の実費が認められます。
生業費と就職支度費は、同一人の同じ就職について重複して受けることはできません。どちらで申請するのが適切かは、ケースワーカーにご相談ください。なお、就職支度費で買う洋服類は、一時扶助の被服費とは別の枠組みです。
\ 月額でいくらぐらい支給されるの??? /
【無料】生活保護受給額シミュレーター
市区町村ごとの級地・住宅扶助に対応した自動計算ツールです。世帯構成・年齢・家賃を入力するだけで、生活扶助・住宅扶助・各種加算を含めた月額受給額の総額目安が1分でわかります。
申請の流れと注意点|ケースワーカーへの事前相談が要
生業扶助でつまずきやすいのは、支払ってから申請しても認められにくいという点です。生業扶助は「収入を増やす、または自立を助長できる見込みがある場合」に支給されるものであり、その見込みを事前に確認する必要があるためです。
手続きは、おおむね次の流れで進みます。
- STEP1ケースワーカーへ事前相談
何のために、いくら必要かをケースワーカーに伝えます。着手前の相談が原則です。
- STEP2計画書と見積書の準備
特別基準の認定にあたっては、生業計画書・技能修得計画書や経費の見積書が判断資料となります。学校のパンフレットや受講料の案内も用意しておくと話が早く進みます。
- STEP3福祉事務所での審査
自立につながる見込みがあるか、金額が必要最小限度かが検討されます。
- STEP4支給と経過の確認
支給後も、技能修得の状況について経過が確認され、必要な助言指導が行われます。
たとえば「先に受講料を払って通い始めてから、後で技能修得費を申請する」という進め方は、認められない可能性が高くなります。自分で通信講座を申し込んでしまってから相談した、入学金を振り込んだ後に報告した、といったケースです。反対に、受講を検討している段階でパンフレットと料金表を持って相談すれば、その講座が対象になるか、いくらまで認められそうかを事前に確認できます。
また、技能修得費の支給にあたっては、修得の状況について経過が確認されることになっています。通い始めた後も、進み具合をケースワーカーに伝えておくと行き違いが起きにくくなります。
まだ生活保護を受けていない方は、まず生活保護の申請方法をご確認ください。生業扶助は生活保護の8つの扶助のひとつであり、受給の手続きが出発点になります。
よくある質問
- Q生業扶助だけを受けることはできますか?
- A
生業扶助は生活保護の8つの扶助のひとつであり、通常は生活保護の受給が前提となります。就労に向けた費用にお困りの場合は、まずお住まいの自治体の福祉事務所にご相談ください。生活保護以外の支援制度を案内される場合もあります。
- Q高校の授業料は全額支給されますか?
- A
高等学校等就学支援金が支給される場合、授業料は生業扶助の対象外となります。就学支援金の対象にならない場合などに、高校が所在する都道府県の条例に定める都道府県立高校の額を上限として支給されます。金額は都道府県ごとに異なるため、福祉事務所でご確認ください。
- Q大学や専門学校の学費も対象になりますか?
- A
大学の学費は生業扶助の対象外です。専修学校・各種学校については、修業年限が3年以上で、普通教育科目を含む就業時間数がおおむね年800時間以上の課程であり、かつ過去に高等学校等を修了していない場合に限り対象となります。大学へ進学する場合は世帯分離という別の取り扱いになりますので、進学を検討し始めた段階でケースワーカーにご相談ください。
- Q自動車の運転免許を取る費用は出ますか?
- A
免許の取得が雇用の条件になっているなど、確実に就労するために必要な場合に限り、技能修得費の特別基準として380,000円以内で認められます。「持っていると就職に有利」という理由だけでは対象になりにくいため、求人票など必要性を示せる資料を用意して事前に相談してください。
- Q資格検定の受験料は何回でも支給されますか?
- A
同一の資格検定等については一度限りとされています。不合格だった場合の再受験は対象外となる可能性が高いため、計画的に受験することが大切です。
- Q生業費と就職支度費は両方受けられますか?
- A
同一人の同じ就職について、生業費と就職支度費を重複して計上することは認められていません。ただし大工や植木職など、その職業に必要な道具を自分で用意することが通例の職種では、道具の購入費と就職支度に要する費用を生業費の基準額の範囲内で計上する取り扱いがあります。どちらで申請すべきかはケースワーカーにご確認ください。
- Q学習支援費は部活動以外にも使えますか?
- A
学習支援費は課外のクラブ活動を行うための費用です。学校で実施する部活動に限らず、地域住民や保護者が密接に関わって行われる活動、ボランティアの一環として行われる活動、部活動の地域展開により実施される「地域クラブ活動」も対象に含まれます。ただし営利を目的として運営されている活動は対象になりません。
まとめ
生業扶助は、生業費・技能修得費・就職支度費の3つと、技能修得費の一類型である高等学校等就学費で構成されます。金額は級地に関係なく全国一律で、技能修得費は状況に応じて92,000円から380,000円まで4段階の上限が設けられています。高校に通うお子さんがいる世帯では、月額7,300円の基本額に加え、入学準備金118,200円以内や学習支援費101,000円以内などが利用できます。
大切なのは、費用を払う前にケースワーカーへ相談することです。生業扶助は自立につながる見込みを事前に確認したうえで支給される仕組みのため、後から領収書を出しても認められないことがあります。資格を取りたい、子どもを高校に通わせたいという気持ちが固まった段階で、早めに福祉事務所へ声をかけてください。
お住まい探しや毎月の受給額について気になることがあれば、当サイトでも無料でご相談を承っています。
▶ コラムトップへ
▶ 扶助の種類の関連記事
▶ 関連コラム
▶ お住まいエリアの情報を見る
▶ 住宅扶助の自治体別データを見る
