体調が悪いのに、「病院に行ったらいくらかかるのだろう」と考えて受診をためらってしまう。生活保護を受けている方、これから申請しようとしている方から、実際によく聞かれる不安です。保険証が手元にないという状況も、その不安に拍車をかけます。
結論からお伝えすると、生活保護を受けている方が病院や薬局で支払うお金は、原則として0円です。これは特別な配慮ではなく、生活保護法が定める「医療扶助」という制度によるものです。
この記事では、生活保護法の条文と厚生労働省の資料をもとに、医療扶助でどこまでの医療が受けられるのか、実際に受診するまでに何をすればいいのか、そして急に具合が悪くなったときはどうすればいいのかを、順を追って解説します。
読み終えるころには、「病院に行っていいのか」という迷いはなくなっているはずです。
医療扶助とは | 医療費の自己負担が原則0円になる仕組み
医療扶助は、生活保護の8つの扶助のひとつです。生活保護法第11条は、扶助の種類を生活扶助・教育扶助・住宅扶助・医療扶助・介護扶助・出産扶助・生業扶助・葬祭扶助の8つと定めており、医療扶助はその4番目にあたります。
生活扶助や住宅扶助が現金で支給されるのに対し、医療扶助には大きな違いがあります。お金ではなく、医療そのものが給付されるという点です。生活保護法第34条第1項は、医療扶助は現物給付によって行うと定めています。つまり、医療費をいったん立て替えて後から精算するのではなく、はじめから窓口で請求されない仕組みになっているのです。
なぜ全額が公費でまかなわれるのか。理由は健康保険との関係にあります。生活保護を受けると、国民健康保険の被保険者から外れます。健康保険に入っていなければ本来は医療費が全額自己負担になりますが、その全額を医療扶助が負担する形に切り替わるのです。厚生労働省の資料も、生活保護受給者は国民健康保険の被保険者から除外されているため、ほとんどの受給者の医療費はその全額を医療扶助で負担すると説明しています。
保険証が手元にないことと、医療費が払えないことは、まったく別の話だということです。
医療扶助で受けられる医療の6つの範囲
「0円になるのはわかったが、どこまで見てもらえるのか」という点も気になるところでしょう。医療扶助の対象になる範囲は、生活保護法第15条に6つ列挙されています。
| # | 条文上の区分 | 具体的にどんな場面か |
|---|---|---|
| 1 | 診察 | 医師の診察を受ける |
| 2 | 薬剤または治療材料 | 処方薬を受け取る。眼鏡などの治療材料もここに含まれる |
| 3 | 医学的処置、手術その他の治療と施術 | 処置・手術・リハビリなどの治療行為 |
| 4 | 居宅における療養上の管理と看護 | 自宅で療養する場合の医師の管理や訪問看護 |
| 5 | 病院・診療所への入院と看護 | 入院して治療を受ける |
| 6 | 移送 | 移送にかかる費用 |
この6つを見てわかるとおり、通院・投薬・手術・入院・在宅療養と、必要な医療のほぼ全体が範囲に入っています。特定の病気だけが対象、というような限定はありません。
そのうえで、受けられる医療の中身そのものも、健康保険で受ける医療と変わりません。生活保護法第52条は、指定医療機関の診療方針と診療報酬は国民健康保険の例によると定めています。医療扶助だから治療の選択肢が狭くなる、といったことは制度上想定されていないのです。
あん摩・マッサージ・指圧、はり、きゅう、柔道整復の施術についても、第34条第4項と第55条により、指定を受けた施術者に委託して給付することができるとされています。
ただし例外もあります。差額ベッド代などの保険が使えない部分(保険外併用療養費にかかるもの)は、原則として医療扶助の対象になりません。東京都福祉局も、医療費の全額を公費で負担するとしたうえで、保険外併用療養費に係るものは原則として適用されないと案内しています。
受診までの流れ | 医療券・調剤券とマイナンバーカード
医療扶助は「病院に行けば自動的に適用される」ものではありません。原則として、受診の前に福祉事務所を通す必要があります。基本の流れは3つのステップです。
ステップ1 福祉事務所(担当のケースワーカー)に連絡する
体調が悪い、この病院にかかりたい、と担当のケースワーカーに伝えます。福祉事務所が医療の必要性を確認したうえで、次の手続きに進みます。
ステップ2 医療券・調剤券を発行してもらう
福祉事務所から、受診する医療機関あてに医療券が発行されます。薬局で薬を受け取る場合は、別に調剤券が発行されます。この券が「この人の医療費は自治体が負担します」という証明の役割を果たします。
ステップ3 指定医療機関を受診する
医療扶助による医療は、生活保護法の指定を受けた医療機関に委託して行われます(第34条第2項)。指定は、国が開設した病院などは厚生労働大臣が、それ以外の病院・診療所・薬局は都道府県知事が行い(第49条)、6年ごとに更新されます(第49条の3)。どの医療機関が指定を受けているかは福祉事務所が把握していますので、受診先はケースワーカーに相談しながら決めるのが確実です。
近年はここに新しい選択肢が加わりました。マイナンバーカードによる資格確認です。生活保護法第34条第5項・第6項に基づき、医療機関や薬局の窓口でマイナンバーカードを提示することで、生活保護を受けているかどうかや医療券・調剤券の情報をオンラインで確認できる仕組みが、2024年(令和6年)3月1日から始まりました。
| 紙の医療券・調剤券 | マイナンバーカード | |
|---|---|---|
| 使えるか | すべての指定医療機関で使える | オンライン資格確認に対応した医療機関・薬局のみ |
| 事前の手続き | 福祉事務所での発行が必要 | カードの取得と利用の申し込みが必要 |
| 今後 | これまでどおり使える | 対応する医療機関が順次拡大中 |
厚生労働省社会・援護局が医療機関向けに出している手引きでも、マイナンバーカードと医療券・調剤券のどちらでも資格確認ができる形で運用が説明されています。マイナンバーカードを持っていない方が受診できなくなる、ということはありません。
急な病気や夜間の救急のときはどうすればいい?
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
原則として受診前に福祉事務所を通すことを説明しました。しかし、夜中に高熱が出た、道で転んで動けない、救急車で運ばれたという場面では、事前に医療券をもらうことは物理的に不可能です。
このため生活保護法第34条第7項は、急迫した事情その他やむを得ない事情がある場合には、指定を受けていない医療機関でも医療の給付を受けることができると定めています。指定外の施術者による施術についても同じ扱いです。つまり、「急いでいて手続きが間に合わない」ことは、法律があらかじめ想定している状況なのです。
そのうえで、実際の場面で押さえておきたいことがあります。窓口では、保険証がないとだけ伝えるのではなく、生活保護を受けていることをはっきり伝えてください。保険証がないという情報だけが伝わると、医療機関は自由診療として全額を請求せざるを得なくなります。生活保護を受けていると伝われば、医療機関は自治体に確認する手順に進むことができます。
そして受診したあとは、できるだけ早く担当のケースワーカーに連絡し、事後の手続きについて指示を受けてください。
勤務先の健康保険に入っている場合・他の公費負担医療がある場合
医療扶助には、全額を医療扶助が負担するのではないケースが2つあります。
背景にあるのは、生活保護法第4条第2項が定める考え方です。他の法律による給付を受けられる場合は、そちらが生活保護に優先します。医療の分野でも同じで、使える制度が他にあるならまずそれを使い、足りない部分を医療扶助が補う形になります。
厚生労働省の資料は、この例外を次の2つに整理しています。
1. 他の公費負担医療が使える方
障害のある方の医療費助成など、別の公費負担医療の対象になっている場合は、その制度で給付されない部分が医療扶助の対象になります。
2. 勤務先の健康保険に入っている方(被保険者・被扶養者)
働きながら生活保護を受けている場合、勤務先の健康保険は継続します。この場合は健康保険が優先し、健康保険で給付されない部分、つまり窓口で払うはずの自己負担分が医療扶助の対象になります。
いずれのケースでも、最終的に窓口で支払う額が0円になる点は同じです。制度の組み合わせ方が違うだけで、負担が増えるわけではありません。
なお、交通事故のように第三者の行為が原因でけがをした場合は、扱いが少し変わります。生活保護法第76条の2により、自治体は支払った保護費の限度で、加害者に対する損害賠償請求権を取得します。この場合は必ず福祉事務所に届け出てください。手続きは自治体側が進めますが、届け出がないと処理が滞ります。
医療扶助で気をつけたい3つのこと
制度を安心して使うために、知っておきたい注意点を3つに絞ってお伝えします。
薬は後発医薬品(ジェネリック)が原則
生活保護法第34条第3項は、医療を担当する医師または歯科医師が医学的な見地から後発医薬品を使用できると認めたものについては、原則として後発医薬品によって給付を行うと定めています。ジェネリックが選ばれることに戸惑う方もいますが、判断するのは医師・歯科医師であり、医学的に適さないと判断されれば先発医薬品が使われます。不安があるときは、診察の場で率直に相談してください。
受診するのは指定医療機関が原則
前述のとおり、医療扶助は指定医療機関に委託して行われます。急迫した事情がある場合の例外はありますが、通常の通院で自己判断のまま指定外の医療機関にかかると、医療扶助の対象にならない可能性があります。かかりたい病院がある場合は、指定を受けているかどうかを事前に福祉事務所へ確認するのが確実です。
受診の前に福祉事務所へ連絡する習慣をつける
通院先を変えるとき、新しい診療科にかかるとき、薬局を変えるときは、そのつど医療券・調剤券の手配が必要になります。「行ってから伝える」よりも「行く前に伝える」ほうが、結果的に手続きは軽くなります。
よくある質問
- Q医療扶助を使うと、窓口でお金を払う必要はありますか
- A
原則として支払いは発生しません。医療扶助は現物給付として行われるため、医療費が窓口で請求されない仕組みになっています。ただし、差額ベッド代など保険が使えない部分は原則として対象外です。
- Q医療券はどこでもらえますか
- A
お住まいの地域を担当する福祉事務所です。担当のケースワーカーに受診したい旨を伝えると、医療の必要性を確認したうえで、受診する医療機関あてに発行されます。薬局を利用する場合は調剤券も別に発行されます。
- Qマイナンバーカードがなくても受診できますか
- A
できます。2024年3月からマイナンバーカードによる資格確認が始まりましたが、これは選択肢が増えたということであり、従来どおり紙の医療券・調剤券でも受診できます。
- Q夜間や休日に急に具合が悪くなったときはどうすればいいですか
- A
生活保護法第34条第7項により、急いでいる場合ややむを得ない事情がある場合は、指定を受けていない医療機関でも医療を受けられます。窓口では「生活保護を受けています」とはっきり伝え、受診後できるだけ早く担当のケースワーカーに連絡してください。
- Q好きな病院を自由に選べますか
- A
医療扶助による医療は、生活保護法の指定を受けた医療機関に委託して行われます。指定を受けている医療機関は数多くありますが、かかりたい病院が決まっている場合は、指定の有無を事前に福祉事務所へ確認してください。
- Q処方される薬は必ずジェネリックになりますか
- A
必ずというわけではありません。生活保護法第34条第3項が定めるのは、医師または歯科医師が医学的な見地から使用できると認めた場合に、原則として後発医薬品で給付するという内容です。医学的に適さないと判断されれば先発医薬品が使われます。
- Q通院にかかる交通費は出ますか
- A
生活保護法第15条は、医療扶助の範囲に「移送」を含めています。ただし対象になるかどうかや範囲は個々の事情によって判断されるため、通院が決まった段階で福祉事務所に確認してください。
\ 月額でいくらぐらい支給されるの??? /
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まとめ
医療扶助は、生活保護を受けている方が窓口の支払いを気にせず医療を受けられるようにするための制度です。現金が支給されるのではなく医療そのものが給付されるため、原則として自己負担は発生しません。対象になる範囲は診察から入院まで幅広く、受けられる医療の中身も健康保険による医療と変わりません。
実際に使ううえでの要点は3つです。
- 通常は受診の前に福祉事務所へ連絡して医療券・調剤券を用意すること。
- 急なときは指定外の医療機関でも受けられると法律に定めがあること。
- そして窓口では生活保護を受けていることをはっきり伝えること。
この3つを押さえておけば、受診をためらう理由はなくなります。体調は、住まいや暮らしの安定と切り離せません。健康を保つことは、次の一歩を踏み出すための土台でもあります。気になる症状があるなら、まずは担当のケースワーカーに一言伝えるところから始めてみてください。
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