生活保護を受けながら「そろそろ働きたい」と思ったとき、あるいはケースワーカーから就労の話を切り出されたとき。何から始めればよいのか、働いたら保護はどうなるのか、不安が先に立つ方は多いと思います。
先に2つお伝えします。ひとつは、生活保護の制度のなかに、就労を支える仕組みが法律で定められていること。もうひとつは、働き始めた時点で保護が終わるわけではないことです。収入が最低生活費を上回って初めて廃止になります。
この記事では、使える仕組みと、相談するときのコツ、そして「働き始めてから卒業まで」のお金の話をまとめます。日々の運用ルールについては受給中にできること・できないこともあわせてご覧ください。
生活保護の中に、就労支援の仕組みがある
生活保護法 第55条の7は「被保護者就労支援事業」という見出しで、福祉事務所が行う支援について定めています。内容は、就労の支援に関する問題について相談に応じ、必要な情報の提供と助言を行うというものです。

抽象的な書き方に見えますが、ポイントは「制度として用意されている」という点です。担当のケースワーカーの厚意ではなく、福祉事務所が実施する事業として法律に位置づけられています。こちらから「就労の相談をしたい」と言ってよい、ということです。
外部の事業者に委託されている場合がある
同じ条文の第2項は、この事業の事務の全部または一部を、福祉事務所以外の者に委託することができると定めています。実際に、相談の窓口が福祉事務所の外に置かれている自治体もあります。
心配になるのが、話した内容が外へ漏れないかという点です。第3項が、委託を受けた者やその役員・職員は「その委託を受けた事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない」と定めています。福祉事務所の職員と同じく、守秘義務がかかる仕組みです。
「働いたら保護が終わる」わけではない
就労の相談をためらう最大の理由が、ここだと思います。働き始めた時点で保護が止まるわけではありません。
生活保護は、収入が最低生活費に足りない分を支給する仕組みです。したがって、収入が最低生活費を上回って初めて、保護を必要としない状態になります。月に数万円の収入が入っても、それが最低生活費に届かなければ、差額が支給され続けます。
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 働き始めたら打ち切られる | 収入が最低生活費を上回るまで、差額が支給される |
| 働いた分だけ支給が減るから、手取りは変わらない | 勤労控除があるため、働いたほうが手元に残るお金は増える |
| 短時間の仕事は意味がない | 収入の申告は必要だが、控除の対象になる |
2つ目が特に大切です。働いて得た収入には勤労控除が設けられており、その分は収入として認定されません。そのため「働いても手取りは同じ」ということにはなりません。控除される額は収入に応じて決まっており、勤労控除の早見表と手元に残る金額にまとめています。最低生活費そのものの計算は生活扶助の計算の仕組みをご覧ください。
収入は必ず申告してください。申告しないままだと、後から不正受給として扱われ、返還を求められることがあります。申告したうえで控除を受けるほうが、結果として手元に残るお金は多くなります。
卒業のときに受け取れる給付金がある
働いて収入が安定し、保護が廃止になるとき。そのタイミングで支給される給付金が法律に定められています。就労自立給付金といいます(生活保護法 第55条の4)。
| 上限額(単身世帯) | 10万円 |
| 上限額(2人以上の世帯) | 15万円 |
| 計算のもとになる期間 | 保護を必要としなくなったと認められた日が属する月から、前の6か月間 |
保護が終わると、それまで支給されていなかった税・社会保険料・医療費の負担が一度に発生します。その立ち上がりを支えるためのお金です。上の数値は令和6年(2024年)10月1日から適用されているもので、実際の額は福祉事務所が計算します。

受け取るには手続きが必要です。働き始めた段階で「将来この給付金の対象になりますか」と聞いておくと、卒業のときに慌てません。廃止の前後で確認しておくことは、廃止のタイミングと準備の記事にまとめています。
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相談するときに伝えるとよいこと
「働きたい」とだけ伝えると、話が一般論で終わることがあります。次の3つを添えると、具体的な提案が返ってきやすくなります。
| 伝えること | 例 |
|---|---|
| 働ける時間と体調 | 「週3日、1日4時間くらいなら」「午前中は体調が安定しない」 |
| 通える範囲 | 「電車で30分以内」「自転車で行ける範囲」 |
| 経験と、できれば避けたいこと | 「接客の経験がある」「立ち仕事は腰に響く」 |
とくに体調のことは、遠慮せずに具体的に伝えてください。無理な条件で始めて続かないほうが、結果的に遠回りになります。通院している場合は、その日程も伝えておくと、シフトの相談がしやすくなります。
相談相手は担当のケースワーカーが基本です。どういう役割の人なのかはケースワーカーとは何かを解説した記事にまとめています。話しにくいと感じる場合は、就労支援の担当者が別にいるかを聞いてみてください。
いきなり就職でなくてよい

「働く」と聞くと、フルタイムの就職を思い浮かべて身構えてしまう方がいます。けれども、就労の支援で扱われるのは就職の斡旋だけではありません。生活のリズムを整えるところから、履歴書の書き方、面接の練習、短時間の仕事から始める段取りまで、段階があります。
自治体によって、用意されている支援の形は違います。ハローワークと連携した紹介を行っているところ、就労に向けた準備の段階を支える事業を持っているところなどがあります。「いまの自分はどの段階から始めるのがよさそうか」を相談の入口にすると、話が具体的になります。
焦って条件の合わない仕事に就くと、続かずに元に戻ってしまいます。続けられる形で始めることのほうが、結果的に早いという考え方で臨んでください。
就労支援を断ることはできるのか
体調が整っていないときに就労を勧められて、困っている方もいます。ここは制度の建て付けを知っておくと、対応しやすくなります。
生活保護法 第62条は、福祉事務所から必要な指導・指示を受けたときは「これに従わなければならない」と定めており、義務に違反したときは保護の変更・停止・廃止をすることができるとしています(第3項)。ただし、その直後の第4項が重要です。
保護の実施機関は、前項の規定により保護の変更、停止又は廃止の処分をする場合には、当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合においては、あらかじめ、当該処分をしようとする理由、弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。

つまり、事情を説明する機会が法律で保障されています。「体調が理由で今は難しい」ということがあるなら、それは黙って断るのではなく、診断書などの根拠とあわせて伝えるべきことです。働けない事情がある場合の扱いは、病気で働けない時の生活保護にまとめています。
納得できない扱いを受けたと感じる場合の考え方は、不当な扱いを受けたときの対処法で整理しています。
よくある質問
- Q働き始めたら、生活保護はすぐ打ち切られますか?
- A
いいえ。収入が最低生活費を上回って初めて保護を必要としない状態になります。それまでは不足分が支給され続けます。ただし収入の申告は必ず行ってください。
- Q働いた分だけ支給が減るなら、働く意味はありますか?
- A
働いて得た収入には勤労控除があり、その分は収入として認定されません。したがって、働いたほうが手元に残るお金は増えます。収入ごとに控除される額は勤労控除の早見表にまとめています。
- Q就労支援は、こちらから頼んでもよいのですか?
- A
頼んでかまいません。生活保護法 第55条の7が「被保護者就労支援事業」として、相談に応じ情報提供と助言を行う事業を定めています。制度として用意されているものです。
- Q相談した内容が外部に漏れることはありませんか?
- A
この事業は外部に委託される場合がありますが、生活保護法 第55条の7第3項により、委託を受けた者やその役員・職員には秘密を漏らしてはならない義務がかかります。
- Q体調が理由で就労を断ると、保護は止められますか?
- A
生活保護法 第62条第4項は、指示違反を理由に処分をする場合には弁明の機会を与えなければならないと定めています。黙って断るのではなく、体調の事情を診断書などの根拠とあわせて伝えてください。
- Q卒業のときに受け取れるお金はありますか?
- A
就労自立給付金があります(生活保護法 第55条の4)。上限は単身世帯10万円、2人以上の世帯15万円で、廃止の月から前の6か月間の就労収入をもとに計算されます。手続きが必要なので、早めに確認してください。
まとめ
- 就労の相談は制度として用意されている(生活保護法 第55条の7)。こちらから頼んでよい
- 外部に委託されることがあるが、委託先にも守秘義務がかかる(同条第3項)
- 働き始めた時点では保護は終わらない。収入が最低生活費を上回って初めて廃止になる
- 勤労控除があるため、働いたほうが手元に残るお金は増える。収入は必ず申告する
- 卒業のときには就労自立給付金(単身10万円・2人以上15万円が上限)がある
- 体調の事情があるなら、黙って断らず伝える。弁明の機会は法律で保障されている(第62条第4項)
就労は、生活保護から離れるための作業であると同時に、受給を続けながらでも進められることです。週に数時間から始めても構いません。まずは「相談したい」と伝えるところからで十分です。
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