家賃の支払いが厳しい、仕事を失って生活が立て直せない。そんなときに調べていくと「生活困窮者自立支援制度」という名前に行き当たります。ただ、生活保護と何が違うのか、どちらに相談すればいいのか、両方使えるのかは、調べてもはっきりしません。
この記事では、2つの制度の違いを5つの軸で整理し、2025年4月の法改正で「併用できる範囲」が生まれたことまで解説します。当サイトは生活保護受給者の住まい探しを専門に扱っており、制度の解説は厚生労働省の告示・通知と自治体の公式資料を直接確認したうえで作成しています。住まいのことで具体的に困っている方は、記事内のご相談窓口もあわせてご利用ください。
生活困窮者自立支援制度とは
制度の目的と根拠法
生活困窮者自立支援制度は、生活困窮者自立支援法(平成25年法律第105号)にもとづく制度です。法律は平成25年12月に成立し、平成27年4月(2015年4月)から施行されました。目的は、生活保護に至る前の段階で自立を支援することにあります。
この制度がつくられた背景には、「働きたいが仕事が見つからない」「家賃が払えず住まいを失いそう」「家計が回らない」といった状態にある人が、従来の仕組みでは支援の対象になりにくかったという事情があります。雇用保険や年金といった社会保険(第1のネット)ではカバーされず、しかし生活保護(第3のネット)の要件にはまだ当てはまらない。このあいだの層を支えるのが生活困窮者自立支援制度であり、位置づけとしては「第2のネット」にあたります。
「生活保護の手前を支える制度」として設計された経緯
制度の設計思想は、困窮が深刻化する前に相談につなげ、就労や家計の立て直しによって自立を回復してもらうことにあります。そのため、生活保護のように「最低生活費に足りない分を現金で補う」形ではなく、相談支援を中心に、必要に応じて有期の給付や訓練を組み合わせるという組み立てになっています。
この「手前の制度」という性格は、相談のしやすさにも表れています。厚生労働省は、この制度の相談にあたっては資産や収入に関する具体的な要件はないと明示しています。複合的な事情を抱えた人が制度の狭間に落ちないよう、できるかぎり幅広く受けとめる設計になっているためです。生活保護のように資産や収入の調査を経て可否が決まる仕組みとは、入口の性質が根本的に異なります。
2025年4月以降、生活保護を受けていても使える支援が生まれた
ここで先に結論をお伝えしておきます。「生活困窮者自立支援制度は生活保護を受けていない人のための制度」という説明は、2025年4月以降は完全には正しくありません。2024年に成立した改正法が2025年4月1日に施行され、一定の条件に当てはまる生活保護受給者も、生活困窮者向けの一部の事業を利用できる仕組みが新しくつくられました。
つまり2つの制度は、かつてのような「どちらか一方」ではなく、部分的に接続された関係に変わっています。詳しくは後半で解説します。
制度で受けられる支援の全体像
生活困窮者自立支援制度の事業は、すべての自治体が必ず実施する「必須事業」と、地域の実情に応じて実施する「任意事業」に分かれます。ここを押さえておくと、「調べた内容と自分の住む市の窓口の説明が違う」という混乱を避けられます。
| 区分 | 事業名 | 内容の概要 |
|---|---|---|
| 必須事業 | 自立相談支援事業 | 相談を受けて支援プランを作成し、必要な支援につなぐ窓口 |
| 必須事業 | 住居確保給付金の支給 | 就職活動などを支えるため、家賃相当額を有期で給付 |
| 任意事業 | 就労準備支援事業 | 一般就労に向けた日常生活・社会生活・就労の訓練を有期で実施 |
| 任意事業 | 居住支援事業 | 住まいのない方への一定期間の宿泊場所の提供、地域で住み続けるための支援 |
| 任意事業 | 家計改善支援事業 | 家計状況の把握、家計の立て直しに向けた相談、貸付のあっせん |
| 任意事業 | 子どもの学習・生活支援事業 | 困窮世帯の子どもへの学習支援、保護者への進学助言など |
必須事業① 自立相談支援事業
制度の中核となる窓口です。相談を受けた支援員が状況を聞き取り、何が必要かを本人と一緒に整理して支援プランをつくります。仕事のこと、住まいのこと、家計のこと、家族のことが混ざっていても、まとめて受けとめる「ワンストップ窓口」として設計されています。
厚生労働省の資料(令和6年9月時点)によれば、この窓口は全国907自治体・1,381機関に設置されています。窓口の名称は自治体ごとに異なり、市役所の生活支援課などが担っている場合も、社会福祉協議会などに委託されている場合もあります。
必須事業② 住居確保給付金の支給
離職などによって住まいを失った、あるいは失うおそれのある方に対して、家賃相当額を有期で支給する給付です。就職活動に専念できるよう、まず住まいの不安を取り除くという考え方に立っています。詳しくは後半で扱います。
任意事業は4種類
任意事業は、就労準備支援・居住支援・家計改善支援・子どもの学習生活支援の4つです。このほか、直ちに一般就労が難しい方に支援付きの働く場を用意する認定就労訓練事業(いわゆる中間的就労)もありますが、これは事業者の自主的な取り組みを都道府県知事などが認定する仕組みで、上記の任意事業とは建て付けが違います。
任意事業は自治体ごとに実施状況が違う
ここが実務上もっとも注意すべき点です。任意事業は「やってもよい」事業であり、すべての自治体が4種類すべてを実施しているわけではありません。インターネットで制度の説明を読んで「この支援が受けられる」と思っても、お住まいの自治体では実施していないことがあり得ます。
制度の一般的な解説と、お住まいの自治体で実際に使える支援は一致しないことがあります。任意事業の実施状況は、地域の自立相談支援機関でご確認ください。
生活保護との違いを5つの軸で整理
5つの軸の比較表
2つの制度の違いは、次の5つの軸で見ると整理しやすくなります。
| 軸 | 生活困窮者自立支援制度 | 生活保護 |
|---|---|---|
| ①想定される状態 | 生活が苦しいが、まだ立て直せる見込みがある段階 | 収入や資産が最低生活費に足りない状態 |
| ②要件 | 相談にあたって資産・収入の具体的な要件はない | 資産・能力の活用、他制度の活用などの要件がある |
| ③支援の性質 | 相談支援が中心。給付は有期で用途が限定される | 8種類の扶助による継続的な生活の保障 |
| ④期間 | 給付・訓練は有期(住居確保給付金は原則3か月) | 要件を満たすかぎり継続 |
| ⑤窓口 | 自立相談支援機関 | 福祉事務所 |
対象者と要件の違い
もっとも大きな違いは入口の要件です。生活保護は、預貯金や不動産などの資産、働く能力、年金など他の制度の活用といった要件を確認したうえで、最低生活費に足りない分を補う制度です。申請にあたっては資産や収入の調査が行われます。
一方、生活困窮者自立支援制度の相談は、資産や収入の具体的な要件が設けられていません(厚生労働省)。「まだ貯金があるから相談できない」と考えて相談をためらう必要はありません。ただし、住居確保給付金のように具体的な給付を受ける場合は、その給付ごとに収入や資産の要件が設けられています。「相談の入口に要件がない」ことと「給付に要件がない」ことは別だと理解しておくと混乱がありません。
なお、生活保護の申請では扶養義務者への照会(扶養照会)が生活保護法にもとづく手続きとして行われます。生活困窮者自立支援制度の相談には、この扶養照会に相当する仕組みは制度上置かれていません。もっとも、支援の内容や運用は自治体によって幅があるため、家族への連絡が心配な場合は相談の場でその点を率直に伝えて確認するのが確実です。
給付の違い
生活保護には生活扶助・住宅扶助・医療扶助・教育扶助・介護扶助・出産扶助・生業扶助・葬祭扶助の8種類の扶助があり、暮らしに必要な費用を幅広くカバーします。これに対して生活困窮者自立支援制度の給付は住居確保給付金が中心で、用途は家賃相当額に限られ、期間も有期です。
言い換えると、生活困窮者自立支援制度は「立て直すための時間をつくる制度」、生活保護は「暮らしの土台そのものを保障する制度」です。この性質の違いが、期間の違い(有期か継続か)にも直結しています。
窓口と手続きの違い
生活保護の窓口は福祉事務所、生活困窮者自立支援制度の窓口は自立相談支援機関です。ただし実際には、同じ市役所の同じフロアに両方の窓口が置かれていることも多く、どちらの窓口に行っても、状況を聞いたうえで適切な側につないでもらえるのが通常の運用です。「制度を選んでから相談しなければならない」と考える必要はありません。
2025年4月の法改正で変わった3点
生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律(令和6年法律第21号)は、令和6年4月17日に成立、同年4月24日に公布され、令和7年4月1日(2025年4月1日)から施行されています。住まいに関わる部分が大きく変わったため、この記事の読者にとって特に重要な改正です。
変更① 「一時生活支援事業」が「居住支援事業」になった
従来「一時生活支援事業」と呼ばれていた任意事業が、「居住支援事業」に改称されました。単なる名前の変更ではありません。この事業には、住まいのない方に一時的な居所を確保する支援(シェルター事業)と、地域で安定して住み続けるための支援(地域居住支援事業)の両方があり、その両輪で進めるべきものであることを明確にするため名称が改められました。
あわせて、シェルター事業と地域居住支援事業のうち必要と認めるものの実施が、自治体の努力義務とされました。任意事業のままではありますが、「やってもよい」から「地域の実情に応じて実施するよう努める」へと位置づけが一段上がった形です。単身の高齢者など賃貸住宅の契約が難しい方が増えていることが背景にあります。
変更② 住居確保給付金の対象が広がった
従来の住居確保給付金は、離職や廃業などによって住まいを失う(またはそのおそれがある)方を対象としていました。改正により、収入が著しく減少して経済的に困窮し、家計を改善するために新たな住居を確保する必要があると認められる方が対象に加わりました。
これは実務上、家賃の低い住宅へ引っ越すことで家計を立て直すという選択肢に、制度として支援の手が届くようになったことを意味します。家賃が家計を圧迫している状態そのものに対応できるようになった、という理解が実態に近いでしょう。
変更③ 自立相談支援事業に住まいの相談支援が明確に位置づけられた
自立相談支援事業において居住に関する相談支援を行うことが法律上明確化されました。厚生労働省は、住まいの相談から入居時・入居中・退居時の支援まで切れ目なく行えるよう、自立相談支援機関に「住まい相談支援員」の配置を含む体制整備を図るとしています。
このほか、支援関係者が情報を共有して支援方針を検討する「支援会議」の設置が自治体の努力義務となり、家計改善支援事業の国庫補助率が引き上げられるなど、制度全体を底上げする改正も同時に行われています。
旧名称のままの情報に注意
改正から日が浅いため、インターネット上には「一時生活支援事業」「家計相談支援事業」といった旧名称のまま解説している情報がいまも多く残っています。行政機関が公開している資料であっても、作成時期が古ければ旧名称のままです。制度名で検索して情報を集めるときは、その資料がいつ作成されたものかを必ず確認してください。
併用はできるのか
原則の考え方
2つの制度は、もともと想定している状態が違います。生活困窮者自立支援制度は生活保護に至る前の段階を支える制度として設計されているため、原則としては、生活保護を受けている方が生活困窮者向けの給付を重ねて受けることは想定されていません。
2025年4月からの一体実施の仕組み(特定被保護者)
ただし2025年4月1日から、この原則に重要な例外が加わりました。一定の要件に当てはまる生活保護受給者を「特定被保護者」として、生活困窮者向けの一部の事業を一体的に実施できる仕組みです。
「特定被保護者」とは、将来的に保護を必要としなくなることが相当程度見込まれる方など、厚生労働省令で定められた被保護者を指します。対象となる事業は次の3つです。
ここで対象になるのは「地域居住支援事業」であり、居住支援事業の全体ではありません。一時的な居所を確保するシェルター事業は含まれていません。この点は混同されやすいため注意してください。
この仕組みの狙いは、生活保護を受けている方が自立に向かう過程で支援が途切れないようにすることにあります。したがって「生活保護を受けているから生活困窮者自立支援制度の支援は一切使えない」という理解は、現在では正確ではありません。実際に利用できるかどうかは個別の判断になるため、担当のケースワーカーにご確認ください。
生活保護を受けている間は住居確保給付金は受けられない
一方で、住居確保給付金については、生活保護を受給している方は対象外です。自治体の案内でも明確にそう示されています。
理由は、両制度が家賃について同じ土台を使っていることにあります。住居確保給付金の支給額の上限は、生活保護の住宅扶助の限度額に準じて設定されています。生活保護を受けている方は住宅扶助によって家賃が支給されるため、住居確保給付金を重ねて受ける必要がなく、制度上も対象から外れる仕組みになっています。
整理すると、2025年4月以降は「就労準備支援・家計改善支援・地域居住支援の3事業は条件つきで併用の道がある」「住居確保給付金は併用できない」という2段構えになっています。
住居確保給付金の位置づけ
どのような給付か
住居確保給付金は、就職活動などを支えるために家賃相当額を有期で支給する給付です。特徴的なのは、給付金が申請者本人ではなく住宅の貸主(大家)の口座へ直接振り込まれる点です。確実に家賃の支払いに充てられ、住まいを失わないようにするための仕組みです。生活保護の住宅扶助における代理納付と考え方が似ています。
支給額と期間の考え方
支給期間は原則3か月です。誠実に求職活動を行っているなど一定の要件を満たす場合には、3か月を限度に2回まで延長でき、最長9か月となります。
支給額の上限は生活保護の住宅扶助の限度額が基準です。住宅扶助の限度額は地域と世帯人数によって決まるため、住居確保給付金の上限額も自治体ごと・世帯人数ごとに異なります。具体的な金額は必ずお住まいの自治体の窓口でご確認ください。また受給中は、自立相談支援機関との定期的な面談やハローワークへの求職申込など、就職に向けた活動と報告が求められます。
詳しい要件は別記事で解説予定
住居確保給付金は収入要件・資産要件・求職活動要件が細かく定められており、2025年4月の改正で対象も広がりました。本記事は2つの制度の違いを整理することを目的としているため、給付金そのものの詳しい要件と申請の流れについては別記事で改めて解説する予定です。
よくある質問
- Q生活困窮者自立支援制度は誰でも相談できますか?
- A
厚生労働省は、この制度の相談にあたって資産や収入に関する具体的な要件はないと明示しています。制度の狭間に落ちる方をつくらないよう、幅広く受けとめる設計になっているためです。ただし住居確保給付金など個別の給付には、それぞれ収入・資産の要件があります。
- Q生活保護を受けていても使える支援はありますか?
- A
2025年4月1日施行の改正法により、将来的に保護を必要としなくなることが相当程度見込まれる方などを「特定被保護者」として、就労準備支援事業・家計改善支援事業・地域居住支援事業を一体的に実施できる仕組みが設けられました。利用できるかは個別の判断になるため、担当のケースワーカーにご確認ください。
- Q相談したら生活保護の申請を勧められますか?
- A
自立相談支援事業は、状況を聞き取って必要な支援につなぐことを役割としています。生活保護のほうが適切だと判断されれば福祉事務所につながれますが、相談すれば必ず申請することになるわけではありません。逆に、生活保護の相談に行った場合に生活困窮者自立支援制度の窓口を案内されることもあります。
- Q住居確保給付金と住宅扶助は同時に受けられますか?
- A
同時には受けられません。生活保護を受給している方は住居確保給付金の対象外とされています。住居確保給付金の支給上限額は住宅扶助の限度額に準じて設定されており、両制度が家賃について同じ土台を使っているためです。
- Q任意事業を実施していない自治体ではどうなりますか?
- A
必須事業である自立相談支援事業と住居確保給付金は全国どこでも実施されています。任意事業4種類の実施状況は自治体ごとに異なるため、お住まいの地域の自立相談支援機関でご確認ください。なお2025年4月から、居住支援事業のうち必要と認めるものの実施は自治体の努力義務とされています。
- Q相談すると家族に連絡がいきますか?
- A
生活保護の申請では扶養義務者への照会が生活保護法にもとづく手続きとして行われますが、生活困窮者自立支援制度の相談にはこれに相当する仕組みは制度上置かれていません。ただし支援の進め方は自治体によって幅があるため、心配な点は相談の場で率直に伝えて確認することをおすすめします。
まとめ
生活困窮者自立支援制度と生活保護は、想定している状態・要件・支援の性質・期間・窓口の5点で性格が異なります。前者は立て直すための時間をつくる制度、後者は暮らしの土台そのものを保障する制度、と押さえておくと違いが理解しやすくなります。
そして2025年4月1日施行の改正法により、この2つは部分的に接続された関係に変わりました。就労準備支援・家計改善支援・地域居住支援の3事業については、条件つきで生活保護受給中でも利用できる道が開かれています。一方、住居確保給付金は生活保護受給中は対象外です。「一時生活支援事業」という旧名称が「居住支援事業」に変わった点も含め、制度の情報は作成時期を確認してから受け取ることが重要です。
どちらの制度に該当するか自分では判断がつかない場合でも、心配はいりません。自立相談支援機関でも福祉事務所でも、状況を聞いたうえで適切な側につないでもらえます。迷ったまま動けずにいることが、いちばん避けたい状態です。また、住まいの確保について具体的にお困りの場合は、当サイトのご相談窓口もご利用ください。
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