借金を抱えたまま生活が立ちゆかなくなったとき、「借金がある自分が生活保護を申請していいのだろうか」「受給が決まったら、保護費から返済しなければならないのだろうか」と迷う方は少なくありません。取り立ての電話が続いていると、福祉事務所の窓口に行くこと自体をためらってしまうこともあります。
結論からお伝えすると、借金があること自体は生活保護の受給要件に影響しません。ただし、生活保護を受けたからといって借金が消えるわけではなく、保護費を返済に充てることも原則として認められていません。この記事では、その先で実際に何が起きるのかを扱います。
本記事の内容は、厚生労働省が公開している「生活保護制度に関するQ&A」、日本司法支援センター(法テラス)の公式資料、破産法および地方税法の規定に基づいて整理しました。制度の運用について推測で書いた箇所はありません。保護費と借金の関係、督促や差押えへの対応、費用を用意できないときの選択肢まで、順を追って確認していきましょう。
借金があっても生活保護は申請できる
生活保護を受けられるかどうかは、世帯の収入と資産が国の定める最低生活費に届いているかどうかで判断されます。借金の有無や金額は、この判断に含まれません。
厚生労働省の「生活保護制度に関するQ&A」でも、住宅ローンを抱えている人について、ローンがあることを理由に受給できないわけではないと明記されています。住宅ローン以外の借金についても考え方は同じで、負債があること自体が申請を妨げる要素にはなりません。
一方で、生活保護の開始によって借金が帳消しになることもありません。生活保護は国と個人の間の社会保障の仕組みであり、借金は債権者との間の民事上の契約です。制度が違うため、片方が始まってももう片方は残り続けます。
つまり「申請はできる、しかし借金は残る」という状態から出発することになります。ここから先が、この記事の本題です。
生活保護そのものの受給要件を先に確認したい方は、生活保護の受給条件4つをわかりやすく解説 | よくある誤解と確認方法もあわせてご覧ください。
保護費を借金の返済に充てることが認められない理由
制度の趣旨から外れるため
厚生労働省の「生活保護制度に関するQ&A」には、保護費から住宅ローンを返済することは、最低限度の生活を保障する生活保護制度の趣旨から原則として認められない、という趣旨の記載があります。
理由は、保護費の性格そのものにあります。保護費は、食費・光熱水費・家賃といった、生活を維持するために最低限必要な費用を賄うために計算された金額です。返済に回す余裕を織り込んだ金額ではありません。返済に充てれば、その分だけ生活費が最低ラインを下回ることになります。
根拠が「制度の趣旨」である以上、この考え方は住宅ローンに限られません。消費者金融でもクレジットカードでも、保護費を返済に回すことは同じ理由で想定されていないと理解しておくのが安全です。
収入と支出は毎月申告する
生活保護を受けている間は、収入の状況を毎月申告することになっています。また、収入・支出その他の生計の状況を適切に把握することが、受給者の義務として定められています。
そのため、返済を続けている事実を伏せたまま受給を続けることは想定されていません。返済のために新たに借入をした場合も、その入金が収入として扱われるかどうかの判断が必要になります。
返済を隠したまま受給を続けると、保護費の返還を求められたり、指導・指示の対象になったりすることがあります。ただし、これは「借金があること」への罰則ではありません。返済を続けている状況こそ、ケースワーカーに正直に伝えて整理の相談をすべき事柄です。隠すのではなく、申告したうえで解決策を一緒に考えるのが正規のルートです。
相談する相手がいる
借金の状況を福祉事務所に伝えることに抵抗を感じる方もいますが、ケースワーカーは債務の問題を抱えた受給者に日常的に接しています。返済をどう扱うか、どこに相談すればよいかについて、実務的な案内を受けられます。
受け取った保護費は差し押さえられない
借金を抱えた方が最も強く不安を感じるのが、「支給された保護費を債権者に差し押さえられてしまうのではないか」という点ではないでしょうか。
この点について、厚生労働省の「生活保護制度に関するQ&A」は、生活保護を受給する人の権利として明確に整理しています。すでに給付を受けた保護費も、保護費を受ける権利そのものも、差し押さえられることはありません。
つまり、督促や取り立てが続いていたとしても、保護費そのものに手を付けられる仕組みにはなっていません。この点は、生活の土台を守るために制度上あらかじめ用意されている保護です。
ただし、これは督促そのものが止まるという意味ではありません。債権者は、受給者が生活保護を受けている事実を知らないまま連絡を続けていることがあります。督促を止めるには、後述する債務整理の手続きに入るのが確実です。
申請と債務整理は、どちらを先にするか
「生活を立て直す手続き」と「借金を整理する手続き」は、目的も窓口も別々の制度です。同時に進めることもできますし、順番をつけることもできます。
一般に、生活費が尽きかけている状況では、生活保護の相談を先に進めるほうが理にかなっています。生活の土台が定まらないままでは、債務整理の方針も立てにくいためです。加えて、生活保護を受給していることが、後述する費用面の支援を受けるうえで意味を持つ場面もあります。
| 手続き | 目的 | 窓口 |
|---|---|---|
| 生活保護の申請 | 当面の生活費・家賃・医療費を確保する | お住まいの地域の福祉事務所 |
| 債務整理 | 借金の返済義務を減らす・なくす | 法テラス(日本司法支援センター)など |
もっとも、どちらを先にすべきかは、督促の切迫度・借金の種類・世帯の状況によって変わります。自己判断で順番を決めるより、福祉事務所での相談時に借金の状況もあわせて伝え、その場で整理の道筋を確認するのが確実です。
なお、債務整理には複数の手続きがあり、裁判所に納める費用の扱いも手続きの種類や裁判所によって異なります。金額の見込みは一律ではないため、実際の負担がいくらになるかは法テラスまたは福祉事務所で確認してください。
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法テラスの民事法律扶助という選択肢
費用を立て替える仕組み
日本司法支援センター(法テラス)は、国が設立した法的トラブル解決のための機関です。その中核となる「民事法律扶助」には、経済的に余裕のない方のために弁護士・司法書士の費用を立て替える仕組みがあります。
立て替えを受けた費用は、原則として分割で返していくことになります。ここで、生活保護を受けている方には別の扱いが用意されています。
受給中は返済が猶予される
法テラスの公式資料によれば、生活保護受給者は、事件が終わるまで立替金の返済(償還)の猶予を受けることができます。手続きを進めている間、費用の支払いに追われることはありません。
終結後に申請すれば免除される場合がある
さらに、生活保護受給者や、生活保護に準ずる程度に生計が困難で資力の回復が見込みにくい方は、事件の終結後に申請することで、立替金の返済の免除を受けられる場合があります。ただし、相手方などから経済的な利益を得た場合は除かれます。
「法テラスを使えば無料」という理解は正確ではありません。法テラス自身が、生活保護が打ち切られる場合や審査の結果によっては免除できないことがあるため、「無料である」といった誤解を招く案内を避けるよう求めています。実際にトラブルになった例があるとも記載されています。正しくは、「受給中は返済が猶予され、終結後に申請すれば免除される場合がある」という段階的な仕組みです。免除は自動ではなく、申請と審査が必要です。
この違いは、手続きの途中で生活保護が廃止になったときに効いてきます。「無料だと思っていたのに請求が来た」という事態を避けるため、相談の段階で自分のケースがどう扱われるのかを確認しておいてください。
借金の種類によって結末が変わる
債務整理、とくに自己破産で免責が認められれば、多くの借金は支払い義務がなくなります。しかし、すべての債務が対象になるわけではありません。
自己破産では消えないもの
破産法第253条第1項第1号は、「租税等の請求権」を免責の対象外(非免責債権)と定めています。これに当たるのは、国税徴収法または国税徴収の例によって強制的に徴収できる債権です。
| 区分 | 具体例 | 自己破産での扱い |
|---|---|---|
| 租税等の請求権 | 住民税・固定資産税・自動車税などの税金、国民健康保険料、国民年金保険料、介護保険料、下水道使用料 | 免責されない |
| 上記以外の一般債権 | 消費者金融・カードローン・クレジットカードの残債、電気・ガス・上水道の料金、公営住宅の家賃 | 免責の対象 |
同じ公共料金でも、下水道の使用料と上水道の料金で扱いが分かれる点に注意してください。徴収の根拠となる法律が異なるためです。なお、個々の債権の扱いは自治体の制度によって異なる場合があるため、実際の判断は相談時に確認してください。
税金は「別の経路」で解決に向かうことがある
自己破産で消えないと聞くと、税金の滞納は永久に残るように思えるかもしれません。しかし、生活保護の受給には別の効果があります。
地方税法第15条の7第1項第2号は、滞納処分をすることによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるときに、滞納処分の執行を停止できると定めています。複数の自治体が公開している取扱要綱では、滞納者が生活保護受給者となった場合をこの規定に当たるものとして扱っています。
同条は、執行の停止が3年間継続したときは、その徴収金を納付・納入する義務が消滅すると定めています。つまり、自己破産では免責されない税金や国民健康保険料であっても、生活保護の受給を通じて滞納処分が停止され、その状態が続いた結果として納付義務がなくなる場合があるということです。
ただし、これは自動的に進む手続きではありません。執行を停止するかどうかは自治体の判断であり、途中で資力が回復すれば停止が取り消されることもあります。税金や保険料の滞納がある場合は、生活保護の相談とあわせて、市区町村の徴収担当の窓口にも状況を伝えておいてください。
よくある質問
- Q生活保護を受けると借金は帳消しになりますか
- A
帳消しにはなりません。生活保護は国と個人の間の社会保障の仕組みであり、借金は債権者との民事上の契約です。制度が別である以上、生活保護の開始によって返済義務が消えることはありません。借金そのものを整理するには、債務整理という別の手続きが必要です。
- Q保護費から少額ずつ返済するのもだめですか
- A
金額の多寡にかかわらず、保護費を返済に充てることは原則として認められていません。保護費は最低限度の生活を維持するために計算された金額であり、返済に回せば生活費がその分だけ不足するためです。返済を続けている場合は、隠さずケースワーカーに伝えて整理の相談をしてください。
- Q受給中に取り立てや督促が来たらどうすればいいですか
- A
受け取った保護費も、保護費を受ける権利も差し押さえられることはありません。ただし、督促そのものが自動的に止まるわけではなく、債権者が受給の事実を知らないまま連絡を続けている場合もあります。督促を止めるには債務整理の手続きに入るのが確実です。まずは福祉事務所または法テラスに状況を伝えてください。
- Q債務整理の費用が用意できません
- A
法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助には、弁護士・司法書士の費用を立て替える仕組みがあります。生活保護を受給している場合、事件が終わるまで立替金の返済が猶予されます。裁判所に納める費用の扱いは手続きの種類によって異なるため、具体的な負担額は相談時に確認してください。
- Q法テラスを使えば費用は無料になりますか
- A
無料になると考えるのは正確ではありません。生活保護受給者は事件終結まで返済が猶予され、終結後に申請すれば免除を受けられる場合がありますが、免除は自動ではなく審査があります。生活保護が打ち切られた場合などは免除されないこともあります。法テラス自身が「無料である」という誤解を招く案内を避けるよう求めており、実際にトラブルになった例もあるとしています。
- Q税金や国民健康保険料の滞納も自己破産でなくなりますか
- A
なくなりません。税金・国民健康保険料・国民年金保険料などは破産法上の「租税等の請求権」に当たり、自己破産で免責されない債権と定められています。ただし、生活保護の受給は滞納処分の執行を停止する理由になり得ます。停止が3年間続いた場合には納付義務が消滅すると定められているため、市区町村の徴収担当窓口にも状況を伝えておいてください。
まとめ
借金があっても生活保護は申請できます。ただし借金は消えず、保護費を返済に充てることも原則として認められていません。この2つを同時に理解しておくことが出発点になります。
そのうえで押さえておきたいのは、受け取った保護費は差し押さえられないこと、費用が用意できなくても法テラスの民事法律扶助という選択肢があること、そして税金の滞納には自己破産とは別の解決の道があることの3点です。
返済を隠したまま受給を続けるより、状況をそのまま伝えて整理の相談をするほうが、結果として早く生活を立て直せます。まずはお住まいの地域の福祉事務所に相談してください。住まいの確保についてお困りのことがあれば、当サイトでもご相談を承っています。
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