「年金をもらっているから、生活保護は受けられない」——そう思って、申請をあきらめていませんか。
結論からお伝えすると、それは誤解です。年金を受け取っていても、その額が国の定める「最低生活費」に届いていなければ、生活保護を受けられる可能性があります。実際、生活保護を受けている世帯の半数以上が高齢者世帯であり、その多くが年金を受け取りながら不足分を保護費で補っています。
この記事では、年金と生活保護がなぜ両立するのかという仕組みから、受給の条件、申請の流れまでを、厚生労働省の一次情報にもとづいて解説します。あわせて、いまだにインターネット上に残っている「高齢者には老齢加算がつく」という古い情報の誤りについても、はっきりと整理します。
結論:年金を受け取っていても生活保護は受けられる
年金の受給は、生活保護の受給を妨げる理由にはなりません。両方を同時に受け取ることができます。
厚生労働省は、生活保護制度について「世帯の収入と、厚生労働大臣の定める基準で計算される最低生活費を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、保護が適用されます」と説明しています。ここでいう「収入」には年金も含まれます。つまり判断されるのは「年金をもらっているかどうか」ではなく、「年金額が最低生活費に届いているかどうか」です。
老齢基礎年金だけで暮らしている単身の高齢者の場合、満額を受け取っていても月額7万円に届きません。一方、都市部の単身高齢者の最低生活費は、住宅扶助を含めると月12万円を超えることが珍しくありません。この差額が、生活保護費として支給されるという構造です。
「年金をもらっているのに生活保護なんて申し訳ない」と感じる方もいます。しかし制度の設計上、年金を受け取っている人こそ、まず年金を活用したうえで足りない分を補うという順序が想定されています。これは制度が本来想定している使い方であり、例外的な利用ではありません。
なぜ両立するのか — 年金は「収入」として扱われる仕組み
生活保護は「足りない分を補う」制度
生活保護法第4条は、生活に困窮する人が「その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用すること」を要件としています。さらに同条第2項で、他の法律による扶助は生活保護に優先すると定めています。これを補足性の原理と呼びます。
年金は「他の法律による給付」にあたります。したがって、年金を受け取れる人はまず年金を受け取り、それでも最低生活費に届かない場合に、生活保護がその差を埋めます。生活保護が「最後のセーフティネット」と呼ばれるのはこのためです。
支給額の計算はシンプルな引き算
厚生労働省は、保護費について「厚生労働大臣が定める基準に基づく最低生活費から収入(年金や就労収入等)を引いた額を保護費として毎月支給します」としています。式にすると次のとおりです。
保護費 = 最低生活費 − 収入(年金・就労収入など)
ここで重要なのは、手元に残る合計額は、年金があってもなくても最低生活費で同じになるという点です。年金が多ければ保護費が減り、年金が少なければ保護費が増えるだけで、内訳が変わるにすぎません。
「年金を受け取ると保護費が減るなら、年金を受け取らないほうが得ではないか」と考える方がいますが、それはできません。受け取れる年金を請求しないことは、補足性の原理に反するためです。年金の請求手続きを促されることもあります。
年金には「勤労控除」がない
誤解が多い点なので、はっきり書いておきます。生活保護には勤労控除という仕組みがあり、働いて得た収入のうち一定額は収入として計上されません(就労収入のうち15,000円までは全額が控除され、それを超える部分は10%が控除されます)。手元に残る額が働くほど増えるようにするための仕組みです。
この勤労控除は就労収入だけが対象です。年金は働いて得た収入ではないため、勤労控除は適用されず、原則として全額が収入として認定されます。「年金にも控除があるはず」と書いている情報を見かけますが、就労収入と混同したものです。
高齢者の生活保護受給の実態(最新データ)
厚生労働省「被保護者調査(令和8年3月分概数)」(2026年6月3日公表)によると、生活保護の状況は次のとおりです。
| 項目 | 令和8年3月 |
|---|---|
| 被保護実人員数 | 1,980,808人(前年同月比 −1.0%) |
| 保護率(人口百人対) | 1.61% |
| 高齢者世帯 | 905,392世帯 |
| 高齢者世帯の構成割合 | 55.3% |
| うち単身の高齢者世帯 | 845,792世帯 |
| 保護の申請件数 | 23,636件(前年同月比 +5.4%) |
生活保護を受けている世帯の55.3%が高齢者世帯です。半数を超えており、いまや生活保護の中心的な利用者層は高齢者だといえます。
さらに注目すべきは、高齢者世帯905,392世帯のうち845,792世帯、実に9割以上が単身世帯だという点です。配偶者と死別し、子どもとも別居し、年金だけで一人暮らしをしている——これが生活保護を利用する高齢者の典型的な姿です。
受給者の総数そのものは前年同月より1.0%減っています。一方で申請件数は前年同月比で5.4%増えています。制度を必要とし、実際に窓口に足を運ぶ人は増えているということです。
「自分だけが特別な事情で困っている」と感じている方に、この数字をお伝えしたいと思います。年金だけでは暮らせない高齢者は、全国に90万世帯います。
高齢者が生活保護を受けるための4つの要件
年齢そのものは要件ではありません。高齢者だから受けられる、あるいは受けられないという区別はなく、次の4点が世帯単位で判断されます。
① 資産の活用
預貯金、生活に利用されていない土地・家屋などがあれば、売却などをして生活費に充てることが求められます。ただし住んでいる家に住み続けられる場合があります。持ち家であっても、その資産価値が地域の実情に照らして極端に高くない限り、保有が認められることがあります。「家があるから無理」と決めつける必要はありません。
② 能力の活用
働くことが可能な人は、その能力に応じて働くことが求められます。高齢者の場合、年齢や健康状態から就労が現実的でないと判断されることが多く、この点が問題になるケースは限られます。判断されるのは「理屈のうえで何か仕事ができるか」ではなく、「実際に安定して働けるか」です。
③ 他の制度の活用
年金や手当など、他の制度で給付を受けられる場合は、まずそれらを活用します。高齢者にとっては、これが実質的に年金の受給そのものを指します。未請求の年金がある場合は、先に請求手続きを行うことになります。
④ 扶養義務者の扶養
親族から援助を受けられる場合は、援助を受けることが優先されます。ただし扶養は「保護に優先する」だけであって、「保護の要件」ではありません。子どもに援助能力がなければ、それだけの話です。2021年の厚生労働省の通知以降、扶養照会の運用は以前より柔軟になっています。事情がある場合は、申請時にその旨を相談してください。
年金額がいくらなら受けられるのか — 最低生活費との比較
「年金が月〇万円以下なら受けられる」という全国一律の線引きは存在しません。最低生活費が、住んでいる地域と世帯の状況で変わるためです。
最低生活費は、おおまかに次の要素を足し合わせて計算されます。
このうち住宅扶助の上限額の差が大きく効きます。たとえば東京23区(1級地-1)の単身世帯の上限は53,700円ですが、地方の町村部では3万円台のところもあります。同じ年金額でも、住んでいる場所によって結論が変わるということです。
住宅扶助の詳しい仕組みと地域別の上限額は、住宅扶助いくらまで?東京53,700円・横浜52,000円|首都圏4都県一覧で解説しています。
生活扶助の計算方法については、生活保護の生活扶助はいくら?計算式・世帯別目安・特例加算まで完全解説で詳しく説明しています。
とはいえ、ご自身で計算するのは大変です。おおよその見当をつけるために、下記の診断ツールをご利用ください。
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なお、この結果はあくまで目安です。正確な判断は福祉事務所が行います。ツールで「難しそう」と出た場合でも、医療費の負担が大きいなど個別の事情で結論が変わることがあります。迷ったら相談してみてください。
【重要】老齢加算は2006年度に廃止されています
インターネット上には、いまも「高齢者には老齢加算が上乗せされる」という記述が残っています。これは誤りです。
老齢加算は、70歳以上の受給者に対して、加齢にともなう特有の生活需要(やわらかい食事、暖房、墓参りなど)を満たすために1960年から実施されていた制度です。東京23区では月17,930円が上乗せされていました。
しかし2004年度から3年かけて段階的に減額され、2006年度(平成18年度)に全廃されました。現在、老齢加算は存在しません。この廃止をめぐっては受給者が取消しを求める訴訟を起こしましたが、最高裁判所は2012年2月28日、廃止を適法とする判断を示し、確定しています。
つまり2026年現在、「高齢である」という理由だけで上乗せされる加算はありません。20年近く前に廃止された制度が、いまも解説記事として残り続けているのが実情です。加算を前提に受給額を見積もると、実際の支給額との差に驚くことになります。
ただし、これは「高齢者にはいっさい加算がない」という意味ではありません。次の項で説明するとおり、障害の状態などに応じた加算は、年齢に関係なく対象になります。
高齢者が受けられる扶助と加算の実際
生活保護は8種類の扶助で構成されています。高齢者世帯が実際に利用することが多いのは次のとおりです。
| 扶助 | 内容 |
|---|---|
| 生活扶助 | 食費・衣料費・光熱費などの日常の費用 |
| 住宅扶助 | 家賃(地域ごとの上限額まで) |
| 医療扶助 | 診察・投薬・入院など。自己負担なし。医療機関へ直接支払われます |
| 介護扶助 | 介護保険サービスの自己負担分 |
高齢者にとって医療扶助と介護扶助の意味は大きいといえます。通院や服薬が続く場合、医療費の自己負担がなくなることは、家計にとって現金の支給と同じかそれ以上の効果を持つためです。
加算については、老齢加算は廃止済みですが、障害者加算は年齢に関係なく対象になります。身体障害者手帳や障害年金の等級に応じて、月15,750円〜27,460円が上乗せされます。高齢になってから障害の状態に該当するようになるケースもあるため、心当たりがあれば確認する価値があります。詳しくは障害者の生活保護はいくら?加算額・対象条件・申請の流れを解説をご覧ください。
高齢者が直面する住まいの課題
生活保護の受給が決まっても、高齢の方には住まいの問題が残ることがあります。
賃貸物件を探す際、年齢を理由に入居を断られることが現実にあります。生活保護の受給を理由に難色を示されることもあります。家賃は住宅扶助でまかなわれ、自治体が大家に直接家賃を支払う代理納付という仕組みも用意されているにもかかわらず、です。
高齢の方が実際に住まいを探すときの具体的な注意点や、断られにくくするための工夫は、高齢の生活保護受給者向けの住まい選びで詳しく解説しています。
ただ、こうした状況に慣れている不動産会社は存在します。一人で物件を探して断られ続けるより、事情を理解している窓口に相談したほうが、結果的に早く決まることが多いのが実情です。お困りでしたら、記事末尾の窓口からご相談ください。
申請の流れと相談先
申請の窓口は、いまお住まいの地域を所管する福祉事務所です。市部では市が、町村部では都道府県が設置しています。
- 事前の相談 — 福祉事務所の生活保護担当窓口へ。制度の説明を受け、他の制度が使えないかも検討します
- 申請 — 申請書を提出します。生活保護の申請は国民の権利です。相談だけでも構いません
- 調査 — 家庭訪問、資産・収入の調査、扶養義務者への照会などが行われます
- 決定 — 原則として申請から14日以内に通知されます(特別な理由がある場合は最長30日)
年金を受け取っている方は、年金証書や年金の振込がわかる通帳を準備しておくと手続きが早く進みます。年金額がわからない場合は、年金事務所で確認できます。必要書類の詳細は生活保護申請の必要書類|共通書類と状況別書類の取得方法にまとめています。
一人で窓口に行くのが不安な場合、介護保険を利用している方であれば地域包括支援センターに相談し、事情を共有しておく方法もあります。相談先の一覧は生活保護の相談窓口一覧と利用方法をご覧ください。
よくある質問
- Q年金をもらっていると生活保護は申請できませんか?
- A
申請できます。年金は「収入」として扱われ、最低生活費から差し引かれます。年金額が最低生活費に届かない場合、その差額が保護費として支給されます。年金の受給そのものが申請を妨げることはありません。
- Q年金が月いくら以下なら生活保護を受けられますか?
- A
全国一律の金額はありません。判断の基準となる最低生活費が、住んでいる地域の級地区分と住宅扶助の上限額によって変わるためです。同じ年金額でも、住む場所によって結論が変わります。おおよその目安は本文中の診断ツールで確認できます。
- Q高齢者には老齢加算がつくと聞きましたが本当ですか?
- A
いいえ、老齢加算は2006年度に全廃されており、現在は存在しません。2004年度から段階的に減額され、廃止されました。廃止の適法性は2012年2月28日の最高裁判所の判断で確定しています。古い情報が更新されないまま残っているものです。ただし障害者加算など、年齢と関係のない加算は対象になり得ます。
- Q持ち家に住んでいますが、家を売らないと受けられませんか?
- A
必ずしも売却が必要とは限りません。実際に住んでいる家については、その資産価値が地域の実情に照らして著しく不公平を生じるものでないかなどを総合的に勘案して判断されます。住み続けられる場合があるため、持ち家を理由に申請をあきらめる必要はありません。
- Q子どもに知られたくないのですが、必ず連絡がいきますか?
- A
扶養義務者への照会は行われますが、2021年の厚生労働省の通知以降、運用は以前より柔軟になっています。「知られたくない」という理由だけでは免除されませんが、具体的な事情を説明すれば配慮される可能性があります。申請時に「扶養照会について相談したい」と伝えてください。なお扶養は保護に優先するだけであり、保護を受けるための要件ではありません。
- Q年金が増えたら生活保護は止まりますか?
- A
年金額が最低生活費を上回れば、保護は停止または廃止となります。ただし医療費の負担が重い方については、医療扶助のみを受ける扱いが可能なケースもあります。収入が基準の近くにある場合は、国民健康保険料や医療費の自己負担が生じることで、かえって生活が苦しくなることがあります。停止のタイミングはケースワーカーとよく相談してください。
- Q受給が決まるまでどのくらいかかりますか?
- A
原則として申請から14日以内に決定が通知されます。資産調査に時間を要するなど特別な理由がある場合は、最長30日まで延びることがあります。手持ちのお金が尽きそうな場合は、その事情も窓口で伝えてください。
まとめ
- 年金を受け取っていても生活保護は受けられる。判断されるのは年金の有無ではなく、年金額が最低生活費に届いているか
- 保護費は「最低生活費 − 収入」の差額。手元に残る合計は年金の有無で変わらない
- 生活保護世帯の55.3%が高齢者世帯で、その9割以上が単身。特別なことではない
- 老齢加算は2006年度に廃止済み。高齢を理由とする加算は現在存在しない
- 「年金が月〇万円以下なら」という全国一律の線引きはない。住む地域で結論が変わる
- 申請は国民の権利。相談だけでもよい。決定は原則14日以内
年金だけでは暮らしが立ち行かないと感じているなら、それは制度が想定している状況そのものです。まずは福祉事務所に相談してみてください。住まいのことでお困りでしたら、下記の窓口からご相談いただけます。
本記事の情報は2026年7月時点のものです。制度改正等により内容が変更される可能性があるため、最新情報は厚生労働省・お住まいの自治体の公式サイトでご確認ください。
【主な出典】生活保護法(昭和25年法律第144号)/ 厚生労働省「生活保護制度」/ 厚生労働省「被保護者調査(令和8年3月分概数)」(2026年6月3日公表)/ 最高裁判所第三小法廷判決(2012年2月28日)
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