生活保護を受けている方から、「これはいつまで続くのか」「働き始めたら、すぐに打ち切られるのではないか」という不安をよく聞きます。逆に、生活が上向いてきたときに「そろそろ終わるはずだが、何を準備すればいいのか分からない」という声もあります。
生活保護が終わるタイミングは、法律に書かれています。「保護を必要としなくなったとき」です。そしてそのとき、卒業する人のために用意された給付金があります。就労自立給付金といい、上限は単身世帯で10万円、2人以上の世帯で15万円です。
この記事では、廃止になる場面と、その前後で手を打っておくべきことを順に整理します。あわせて、納得できないときにできることと、また必要になったときの戻り方もまとめます。制度の全体像は、生活保護とは何かを解説した記事にあります。
生活保護は「必要としなくなったとき」に終わる
生活保護法 第26条は、保護の停止と廃止について、こう定めています。
保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなつたときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。
2つ押さえておきたい点があります。ひとつは、終わる条件が「保護を必要としなくなつたとき」だということ。年数の区切りや回数の制限ではありません。もうひとつは、必ず書面で通知されるということです。口頭で「もう終わりです」と言われただけの状態は、法律が想定している形ではありません。
「停止」と「廃止」は意味が違う
条文には「停止又は廃止」と2つ並んでいます。この2つは扱いが違います。
| 停止 | 廃止 | |
|---|---|---|
| 意味 | 一時的に支給を止める | 保護そのものを終える |
| 使われる場面 | 一時的な収入があったなど、また支給が必要になる見込みがあるとき | 安定した収入が見込めるようになったとき |
| 戻るときの手続き | 停止を解除する手続き | あらためて申請する |
この違いは、健康保険の扱いにも表れます。国民健康保険法 第6条第9号は、国民健康保険に加入しない人として「生活保護法による保護を受けている世帯(その保護を停止されている世帯を除く。)に属する者」を挙げています。
括弧の中が大切です。停止のあいだは、国民健康保険に加入することになります。医療費の扱いが変わるため、停止の通知を受け取ったら、健康保険をどうするかを必ず確認してください。受給中の医療費の仕組みは、医療扶助の記事にまとめています。
廃止になる典型的な場面
「必要としなくなった」と判断されるのは、主に次のような場面です。
| 場面 | 内容 |
|---|---|
| 就労収入が増えた | 働いて得る収入が、その世帯の最低生活費を上回った |
| 年金や手当が始まった | 年金の受給が始まった、障害年金が決定したなど |
| 世帯の状況が変わった | 同居する家族が働き始めた、世帯を分けた、婚姻したなど |
| 資産が入った | 相続・保険金・不動産の売却などで、当面の生活をまかなえるようになった |
| 他の自治体へ転出した | いまの福祉事務所での保護は廃止され、転出先で申請し直す |
働き始めた時点では、すぐに終わらない
いちばん誤解されやすいのがここです。働き始めたからといって、その時点で保護が終わるわけではありません。生活保護は、収入が最低生活費に足りない分を支給する仕組みだからです。収入がその世帯の最低生活費を上回って初めて、保護を必要としない状態になります。
しかも、働いて得た収入からは勤労控除が差し引かれたうえで計算されます。手取りがそのまま支給額から引かれるわけではありません。働きながら受給する場合の扱いは受給中にできること・できないことに、最低生活費の決まり方は生活扶助の計算の仕組みにまとめています。
働き始めたら、収入は必ず申告してください。申告しないままだと、後から不正受給として扱われ、返還を求められることがあります。申告したうえで控除を受けるほうが、手元に残るお金は多くなります。
卒業のときに受け取れる給付金がある
あまり知られていませんが、保護が廃止になるときに支給される給付金が法律に定められています。
就労自立給付金 — 働いて卒業する人のための給付金
生活保護法 第55条の4は、「安定した職業に就いたことその他厚生労働省令で定める事由により保護を必要としなくなつたと認めた」人に対して、就労自立給付金を支給すると定めています。
| 上限額(単身世帯) | 10万円 |
| 上限額(2人以上の世帯) | 15万円 |
| 計算のもとになる期間 | 保護を必要としなくなったと認められた日が属する月から起算して、前の6か月間 |
金額は、この6か月間の就労収入をもとに計算されます。計算の仕組みは細かく決められているため、ご自身がいくらになるかは福祉事務所で確認してください。上の数値は令和6年(2024年)10月1日から適用されているものです。
この給付金がある理由ははっきりしています。保護が終わると、それまで支給されていなかった税・社会保険料・医療費の負担が一度に発生します。その立ち上がりを支えるためのお金です。受け取るには手続きが要るため、廃止の話が出た段階で担当のケースワーカーに確認しておいてください。
進学・就職準備給付金 — 進学や就職の節目に
生活保護法 第55条の5は、進学・就職準備給付金を定めています。大学や専門学校などへ確実に入学すると見込まれる人、あるいは安定した職業に確実に就くと見込まれる人が対象です。18歳になった年度の終わりまでにある人など、対象は省令で決められています。
進学や就職を機に世帯を離れる場合、その準備にあてる給付金です。該当しそうな方がいる世帯では、早めに相談しておくと手続きが間に合います。
どちらの給付金も、生活保護法 第1条が掲げる「自立を助長する」という目的にもとづくものです。制度は、終わることを前提に組み立てられています。
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廃止の前後で、先に手を打っておくこと
保護が終わると、それまで免除されていた負担が戻ってきます。通知を受け取ってから慌てないよう、見通しが立った段階で確認しておくことを3つに整理します。
1. 健康保険の切り替え
受給中の医療費は医療扶助でまかなわれ、窓口での支払いは原則ありません。廃止になると、この扱いが終わります。勤め先の健康保険に入るか、国民健康保険に加入するかを決めて、手続きをする必要があります。
ここが最も間が空きやすいところです。切り替えが済むまでのあいだに受診すると、窓口でいったん全額を払うことになる場合があります。持病があって定期的に受診している方は、とくに早めに動いてください。
2. 家賃の支払い方法
住宅扶助を代理納付で受けていた場合、家賃は自治体から大家さんや管理会社へ直接支払われていました。廃止になると、この仕組みも終わります。翌月からはご自身で振り込む必要があります。
振込先、支払い期日、支払い方法を、事前に大家さんや管理会社に確認しておいてください。ここで滞納が生じると、せっかく立て直した生活の足元が崩れます。
3. 税・年金・保育料などの負担
受給中は、住民税や国民年金の保険料、NHKの受信料などで減免や免除の扱いを受けていることがあります。保護が廃止になると、こうした扱いも見直されます。
どれが自分に当てはまるかは、世帯の状況によって違います。廃止の見通しが立った段階で、担当のケースワーカーに「廃止になったら、何がどう変わりますか」と一覧で聞いておくのがいちばん確実です。
納得できないとき、また必要になったとき
廃止の決定に不服があるとき
廃止も、行政の処分のひとつです。納得できなければ審査請求ができます。期限は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月です(行政不服審査法 第18条第1項)。宛先は都道府県知事で、書類は廃止を決めた福祉事務所の窓口に出してもかまいません。
「60日以内」という説明を見かけることがありますが、それは2016年3月末まで有効だった古い数字です。手続きの詳細は、審査請求のやり方をまとめた記事をご覧ください。
また必要になったら、あらためて申請できる
一度廃止になったあとでも、必要になればまた申請できます。申請の回数に制限はなく、過去に受けていたことが次の申請の妨げになることもありません。仕事を失った、病気になった、収入が減った。そうした変化があれば、そのときの状況で判断されます。手順は申請から受給開始までの流れと同じです。
生活保護までは至らないものの生活が苦しいという段階であれば、生活困窮者自立支援制度という受け皿もあります。廃止の直後は収支が安定しにくい時期なので、こちらも知っておくと選べる手が増えます。
よくある質問
- Q生活保護は何年で終わりますか?
- A
年数の区切りはありません。生活保護法 第26条は「保護を必要としなくなつたとき」に停止または廃止すると定めています。期間ではなく、そのときの状況で決まります。
- Q働き始めたら、すぐに打ち切られますか?
- A
いいえ。収入が最低生活費を上回って初めて保護を必要としない状態になります。働いて得た収入からは勤労控除も差し引かれます。ただし収入の申告は必ず行ってください。
- Q「停止」と「廃止」はどう違いますか?
- A
停止は一時的に支給を止めるもので、廃止は保護そのものを終えるものです。国民健康保険法 第6条第9号により、停止のあいだは国民健康保険に加入することになります。
- Q就労自立給付金はいくらもらえますか?
- A
上限は単身世帯で10万円、2人以上の世帯で15万円です(令和6年10月1日から適用)。廃止の月から前の6か月間の就労収入をもとに計算されるため、実際の額は福祉事務所にご確認ください。
- Q廃止になったあと、健康保険はどうなりますか?
- A
医療扶助は終わります。勤め先の健康保険に入るか、国民健康保険に加入する手続きが必要です。切り替えの前に受診すると窓口で全額を払うことになる場合があるため、早めに手続きしてください。
- Q廃止の決定に納得できない場合はどうすればよいですか?
- A
審査請求ができます。期限は処分を知った日の翌日から起算して3か月です。宛先は都道府県知事ですが、書類は廃止を決めた福祉事務所の窓口に出してもかまいません。
まとめ — 終わりは、通知が来る前から準備できる
- 生活保護は年数ではなく「保護を必要としなくなつたとき」に終わる(生活保護法 第26条)。必ず書面で通知される
- 「停止」は一時的に止めるもの、「廃止」は終えるもの。停止のあいだは国民健康保険に加入する
- 働き始めた時点では終わらない。収入が最低生活費を上回って初めて廃止になる
- 就労自立給付金がある。上限は単身10万円・2人以上15万円。手続きが要るので早めに確認する
- 廃止の前に、健康保険・家賃の支払い方法・税や保険料の扱いの3つを確認しておく
- 納得できなければ3か月以内に審査請求。また必要になればあらためて申請できる
保護の終わりは、ある日突然やってくるものではありません。収入が上向いてきた、年金の手続きが進んでいる、家族の状況が変わりそうだ。そうした兆しが見えた段階で、「廃止になったら何がどう変わるか」を先に聞いておくことができます。
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