生活保護の申請が却下された。窓口で「あなたは対象外です」と言われた。そのとき、多くの方が「もうどうにもならない」と受け止めて、そこで止まってしまいます。
けれども、却下は最終決定ではありません。やり直して申請することもできますし、その決定そのものに不服を申し立てる制度も法律で用意されています。不服を申し立てる手続きは「審査請求」といい、期限は3か月です。
この記事では、却下通知を受け取った直後にやることから、審査請求の出し方、その先の再審査請求と裁判までを順にまとめます。日数や手続きの根拠は、生活保護法・行政不服審査法・行政事件訴訟法の条文を確認したうえで書いています。申請から決定までの流れそのものは、申請から受給開始までの6ステップで解説しています。
却下されたら、まず却下通知書の「理由」を読む
最初にやることは1つだけです。却下通知書を手元に置き、そこに書かれている理由を読むこと。ここから先の判断は、すべてこの理由によって変わります。
生活保護法は、申請に対する決定を書面で通知しなければならないと定めており(第24条第3項)、申請を却下する場合にはその理由を書き添えなければならないとも定めています(同条第4項)。つまり、「口頭で断られただけ」という状態は、法律が想定している却下の形ではありません。
窓口で断られただけで通知書をもらっていない場合は、まず「申請書を受け取っていただき、結果を書面でください」と伝えてください。書面が出ていなければ、不服を申し立てる対象そのものが存在しないことになってしまいます。
通知が来るまでの日数は決まっている
結果の通知は、申請した日から何日以内に届くのかが法律で決まっています。
| 経過日数 | 法律上の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 申請から14日以内 | 原則として、この期間内に結果を書面で通知する | 生活保護法 第24条第5項 |
| 最長30日まで | 扶養義務者の資産や収入の調査に日数がかかるなど、特別な理由があるときは30日まで延ばせる。延ばす場合は通知書にその理由が示される | 同上 |
| 30日を過ぎても通知がない | 申請者は「却下されたもの」とみなすことができる | 生活保護法 第24条第7項 |
最後の行が大切です。30日たっても何の通知も来ないとき、申請者の側から「却下されたものとみなす」と判断して、次の手続きへ進むことができます。返事を待ち続けるしかない、という制度にはなっていません。手続きの窓口である福祉事務所がどういう組織なのかは、福祉事務所の役割と組織体制にまとめています。
却下されたあとに取れる道は3つある
通知書の理由を読んだら、次の3つのうちどれを選ぶかを決めます。どれか1つしか選べないわけではなく、2つを同時に進めることもできます。
| 選択肢 | 向いている場面 | 期限 |
|---|---|---|
| もう一度申請する(再申請) | 収入が減った、貯金が尽きたなど、前回から状況が変わったとき。書類の不足が理由だったとき | 期限なし。いつでも何度でもできる |
| 審査請求する | 却下の判断そのものが間違っていると考えるとき。法律や基準の当てはめ方に納得できないとき | 3か月 |
| 両方を進める | いま生活が成り立たないので早く保護を受けたいが、前回の判断にも納得していないとき | 審査請求の側は3か月 |
もう一度申請する — 回数の制限はない
生活保護の申請は、何度でもできます。前回却下されたことを理由に、次の申請を受け付けないという扱いは法律上できません。
再申請が有効なのは、前回から事情が変わっている場合です。手持ちのお金が減った、仕事を失った、家賃が払えなくなった、病気で働けなくなった。生活保護は申請時点の状況で判断されるため、状況が変われば結論も変わります。書類が足りずに判断できなかったというケースもあるので、申請に必要な書類を確認したうえで整えて出し直すと、話が早く進みます。
審査請求する — 判断そのものを見直してもらう
審査請求は、却下という決定が正しかったかどうかを、決定した福祉事務所とは別の立場の人に判断し直してもらう手続きです。やり直しの申請とは違い、「前回の決定が誤りだった」と認められれば、決定そのものが取り消されます。
実際には、誤解にもとづいて「対象外」と判断されているケースが少なくありません。持ち家があるから、借金があるから、まだ若いから、住むところが決まっていないから。こうした事情は、それだけで受給できない理由にはなりません。判断の基準そのものは、生活保護の受給条件4つで確認できます。
両方を進める — 生活を止めないための選び方
審査請求は、結果が出るまでに1〜2か月かかります。その間の生活が成り立たないのであれば、審査請求を出しておきながら、同時にもう一度申請するという進め方ができます。どちらかを選ばなければならない制度ではありません。
審査請求ができるのは「3か月以内」。「60日」は10年前に終わった数字
この記事でいちばんお伝えしたいのが、ここです。
行政不服審査法 第18条第1項は、審査請求の期限をこう定めています。
処分についての審査請求は、処分があったことを知つた日の翌日から起算して三月(略)を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

3か月です。60日ではありません。
なぜ「60日以内」という情報が出回っているのか
「60日」は、かつて本当に正しい数字でした。古い行政不服審査法では、不服申立ての期限が60日と定められていたためです。
それが改正されました。総務省の資料は、改正の内容を「審査請求をすることができる期間(審査請求期間)を3か月に延長(現行60日)」と説明しています。新しい行政不服審査法(平成26年法律第68号)の施行日は平成28年(2016年)4月1日です。
つまり「60日」が有効だったのは2016年3月31日までで、すでに10年前の数字です。それでも、改正前に書かれた解説記事がそのまま残っていたり、古い情報を写した記事が新しく作られたりして、いまも「60日以内」という説明を見かけます。制度がどのように変わってきたかは、生活保護制度の歴史でもたどっています。
この差は小さくありません。「60日」だと信じていると、実際にはまだ1か月以上の余裕があるのに「もう間に合わない」とあきらめてしまいます。期限の情報を見かけたら、それが2016年4月1日以降に書かれたものかどうかを確かめてください。
数え始めるのは「知った日の翌日」から
条文は「処分があったことを知った日の翌日から起算して」と書いています。決定が出された日からでも、通知書に書かれた日付からでもなく、あなたが却下を知った日の翌日が1日目です。通知書が郵便で届いたのであれば、受け取った日の翌日から数えます。
| 期限 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 3か月 | 却下を知った日の翌日から起算。これが原則の期限 | 行政不服審査法 第18条第1項 |
| 1年 | 却下があった日の翌日から起算。3か月を過ぎていても正当な理由があれば認められる余地があるが、1年を過ぎると原則としてできない | 同法 第18条第2項 |
どちらの期限にも「ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」という例外が付いています。3か月を少し過ぎてしまった場合でも、事情によっては受け付けられることがあります。過ぎているからと自己判断であきらめず、まず窓口に事情を伝えてください。
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審査請求のやり方 — 出す先・出し方・書くこと
出す先は都道府県知事
市や区の福祉事務所が出した却下に対する審査請求は、その市区町村を含む都道府県の知事に対して行います。生活保護法 第64条が、市町村長が保護の決定・実施の事務を福祉事務所に任せている場合の審査請求について、「都道府県知事に対してするものとする」と定めているためです。
宛名は「○○県知事 殿」「東京都知事 殿」のように書きます。却下した福祉事務所の所長宛てではありません。
却下した福祉事務所の窓口に出してもよい
宛先が知事であっても、書類を持っていく先は、却下した福祉事務所でかまいません。行政不服審査法 第21条第1項は、審査請求を「処分庁等を経由してすることができる」と定めています。受け取った福祉事務所には、これをただちに知事へ送る義務があります(同条第2項)。
しかも、福祉事務所に提出した時点で審査請求があったものとみなされます(同条第3項)。県庁に届くまでに日数がかかっても、期限の計算では不利になりません。
断られた相手の窓口へ書類を持っていくのは気が重い、という場合は、都道府県庁へ直接提出することもできます。一人で行くのが不安なときは、申請に同行できる人で紹介している考え方が、そのまま審査請求の場面にも使えます。
審査請求書に書くこと
審査請求は書面で行います。決まった用紙が配られるわけではありませんが、多くの都道府県が様式を公開しています。最低限、次の内容が必要です。
| 書く項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 審査請求人 | 氏名・住所(または居所)・連絡先 |
| 不服がある処分 | 「令和○年○月○日付けで○○市福祉事務所長から受けた生活保護申請却下処分」のように、日付と処分をした相手を特定して書く |
| その処分を知った年月日 | 通知書を受け取った日。期限の起算点になるので正確に |
| 審査請求の趣旨 | 「上記処分の取消しを求める」 |
| 審査請求の理由 | なぜ納得できないのかを、できるだけ具体的に |
| 年月日 | 提出する日 |
理由の欄がいちばん大切です。「生活が苦しい」だけではなく、却下通知書に書かれた理由のどこがどう事実と違うのかを、通知書の記載に沿って書くと伝わりやすくなります。収入や資産の額、医師の診断、家賃の契約内容など、根拠になる書類があれば写しを添えます。
郵送にかかった日数は、期限に数えない
審査請求書を郵便や信書便で送った場合、送付にかかった日数は期限の計算に入れません(行政不服審査法 第18条第3項)。期限の直前になっても、その日のうちに投函できれば間に合います。念のため、消印の日付が分かる形で出しておくと確実です。
出したあとの流れ — 原則50日で結果が出る
審査請求を出すと、都道府県知事が内容を調べ、「裁決」という形で結論を出します。この結論までの日数も、生活保護法 第65条で決まっています。
| 場合 | 結論が出るまでの期間 |
|---|---|
| 原則 | 審査請求をした日から50日以内 |
| 第三者機関(行政不服審査会など)に意見を聴く場合 | 審査請求をした日から70日以内 |
書類に不備があって補正を求められた場合は、補正した日から数え直します。
期間内に結果が出ないときは、次へ進んでよい
生活保護法 第65条第2項には、この期間内に裁決がないときは、審査請求を退けられたものとみなすことができると書かれています。結論が出るまで待ち続ける必要はなく、次の手続きへ進めます。
結論は3通りです。認容(却下の決定が取り消される)、棄却(審査請求に理由がないとされる)、却下(期限切れなど、内容に入る前に門前払いされる)。認容されれば、あらためて保護の要否が判断し直されます。
それでも納得できないとき — 再審査請求と裁判
裁決にも納得できない場合、進める道がさらに2つあります。
再審査請求は厚生労働大臣へ・1か月以内
都道府県知事の裁決に不服がある場合、厚生労働大臣に対して再審査請求ができます(生活保護法 第66条第1項)。期限は、裁決があったことを知った日の翌日から起算して1か月です(行政不服審査法 第62条第1項)。審査請求の3か月より短いので、裁決が届いたらすぐに判断してください。
裁判は「審査請求の結果が出てから」
却下の取消しを裁判で争うこともできますが、順番が決まっています。生活保護法 第69条は、処分の取消しの訴えは「当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ、提起することができない」と定めています。いきなり裁判を起こすことはできず、先に審査請求をする必要があるということです。
訴えを起こせる期間は、裁決があったことを知った日から6か月です(行政事件訴訟法 第14条第3項)。裁判を検討する段階では、弁護士や司法書士への相談が現実的な選択肢になります。費用の負担が難しい場合に利用できる公的な支援制度もあるため、生活保護の相談窓口一覧もあわせてご覧ください。
| 段階 | 相手 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 審査請求 | 都道府県知事 | 知った日の翌日から3か月 | 生活保護法 第64条/行政不服審査法 第18条第1項 |
| 再審査請求 | 厚生労働大臣 | 裁決を知った日の翌日から1か月 | 生活保護法 第66条第1項/行政不服審査法 第62条第1項 |
| 取消訴訟 | 裁判所 | 裁決を知った日から6か月(審査請求の裁決を経てから) | 生活保護法 第69条/行政事件訴訟法 第14条第3項 |
この記事は制度の一般的な説明です。実際の期限の数え方や手続きは、個別の事情によって変わることがあります。ご自身のケースについては、お住まいの都道府県・福祉事務所の窓口か、弁護士などの専門家にご確認ください。
却下を避けるために、申請の前後でできること
受給できない理由だと誤解されやすい4つのこと
「自分は対象外だ」と思い込んで申請しない方、あるいは窓口でそう説明されて引き下がってしまう方が多いのが、次の4つです。いずれも、それだけで受給できない理由にはなりません。
| よくある誤解 | 実際 |
|---|---|
| 持ち家があると受けられない | 住み続けながら受給できる場合がある。売却が必要になる条件は限られている |
| 借金があると受けられない | 借金の有無は受給の要件ではない。返済の扱いと債務整理は別の問題として整理する |
| 住むところがないと申請できない | 住所が定まっていなくても申請できる。現在地保護の仕組みがある |
| 働ける年齢だと受けられない | 年齢そのものは要件ではない。病気やけがで働けない事情があれば当然に考慮される |
家族への連絡が不安で止まっている場合
申請をためらう理由として多いのが、親や兄弟に連絡がいくのではないかという不安です。この扶養照会は、現在は本人の意向を確かめたうえで慎重に扱う運用へと変わっています。対象になる範囲と、連絡を控えてもらえるケースについては、扶養照会の対象になる親族の範囲にまとめています。
結果を待つあいだの生活をどうするか
審査請求の結果が出るまでの1〜2か月、あるいは再申請の結果が出るまでのあいだ、生活をどう支えるかは現実的な問題です。生活保護以外にも、家賃や生活費を支える公的な制度があります。生活困窮者自立支援制度や、家賃が払えないときの支援制度を先に確認しておくと、選べる手が増えます。
よくある質問
- Q審査請求の期限は60日ですか、3か月ですか?
- A
3か月です。処分があったことを知った日の翌日から起算します(行政不服審査法 第18条第1項)。60日は古い法律の数字で、2016年3月31日までのものです。
- Q審査請求はどこに出せばよいですか?
- A
宛先は都道府県知事です(生活保護法 第64条)。書類そのものは、却下した福祉事務所の窓口に出してもかまいません。提出した時点で審査請求があったものとみなされます(行政不服審査法 第21条)。
- Q却下されたあと、もう一度申請できますか?
- A
できます。申請の回数に制限はなく、前回却下されたことを理由に受付を断ることはできません。収入や資産の状況が変わっていれば、結論も変わり得ます。
- Q審査請求と再申請は同時に進められますか?
- A
進められます。どちらか一方を選ばなければならない制度ではありません。いま生活が成り立たない場合は、審査請求を出したうえで、あらためて申請する進め方が現実的です。
- Q申請から30日たっても連絡がありません。どうすればよいですか?
- A
生活保護法 第24条第7項により、申請者は却下されたものとみなすことができます。その扱いを選んで審査請求へ進むことも、まず福祉事務所に進捗を確認することもできます。
- Q3か月を過ぎてしまいました。もう審査請求はできませんか?
- A
条文には「正当な理由があるときは、この限りでない」という例外が置かれています。自己判断であきらめず、事情を添えて窓口に相談してください。ただし処分があった日の翌日から1年を過ぎると、原則としてできなくなります。
- Q審査請求に費用はかかりますか?
- A
審査請求そのものに手数料はかかりません。必要になるのは書類の郵送代や、添付する資料の取得費用程度です。弁護士などに依頼する場合は別途の費用がかかります。
- Q裁判を起こす前に、必ず審査請求をしなければなりませんか?
- A
はい。生活保護法 第69条により、処分の取消しの訴えは審査請求の裁決を経た後でなければ起こせません。この意味でも、まず3か月以内に審査請求を出しておくことが大切です。
まとめ — 覚えておくのは「3か月」の一言
この記事の要点は、次の4つです。
- 却下は書面で通知され、理由が書かれている。まずそれを読む(生活保護法 第24条)
- 取れる道は「再申請」「審査請求」「両方」の3つ。再申請に回数の制限はない
- 審査請求の期限は3か月。60日ではない(行政不服審査法 第18条第1項)
- 宛先は都道府県知事だが、書類は却下した福祉事務所に出してもよい
生活保護は、困ったときに国へ保護を求めることができる権利として法律に定められた制度です。その判断に納得できないときに申し立てられる仕組みも、あわせて用意されています。不当な扱いを受けたときの対処法とあわせて、確認下さい。
そして、期限だけは忘れないでください。知った日の翌日から3か月。この一言を覚えておけば、あきらめる必要のない場面であきらめずに済みます。
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