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現在地主義と居住地主義の違い

現在地主義と居住地主義の違い 生保の基礎

生活保護の相談に行こうとしたとき、「住民票のある市に行くべきなのか、それとも今いる場所の福祉事務所でいいのか」で迷う方は少なくありません。事情があって住民票を移せないまま別の街で暮らしている方、住まいを失って知人宅を転々としている方にとっては、窓口をひとつ間違えるだけで時間も体力も奪われる切実な問題です。

答えははっきりしています。生活保護を担当する福祉事務所は、住民票のある場所ではなく、その人の「居住地」または「現在地」によって決まります。この2つの考え方は、実務のなかでそれぞれ居住地主義・現在地主義と呼ばれています。

本記事では、生活保護法第19条の条文と、厚生労働省が定める保護の実施要領(事務次官通知・社会局長通知)に基づいて、2つの違いと適用される場面を整理します。伝聞や解釈ではなく、どの条文のどこにどう書かれているかまで示します。

住民票と住まいが違う場合、引越しをした場合、入院した場合、そして福祉事務所が置かれていない町村に住んでいる場合まで、実際に起こりうる場面ごとに確認していきましょう。


生活保護を担当する福祉事務所は「居住地」か「現在地」で決まる

生活保護には、どの自治体がその人の保護を決定し実施するのかを定めたルールがあります。これを実施責任といい、生活保護法第19条に規定されています。

第19条第1項は、都道府県知事・市長・福祉事務所を管理する町村長が保護を決定し実施しなければならない相手を、次の2種類に分けています。

条文対象となる人担当する福祉事務所
第19条第1項第1号その福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者居住地を所管する福祉事務所
第19条第1項第2号居住地がないか、又は明らかでない要保護者であって、所管区域内に現在地を有するもの現在地を所管する福祉事務所

第1号にあたる扱いが居住地保護、第2号にあたる扱いが現在地保護です。順序が大切で、まず居住地があるかどうかを見て、居住地がない場合や明らかでない場合にはじめて現在地で判断します。どちらか好きなほうを選べる仕組みではありません。

「現在地主義」「居住地主義」は法律用語ではない

ここで一点、正確にしておきたいことがあります。「現在地主義」「居住地主義」という言葉は、生活保護法の条文には一度も登場しません。

条文が定めているのは、あくまで「居住地または現在地によって実施責任が決まる」という仕組みです。2つの呼び名は、その仕組みを説明するために実務や解説の場面で使われてきた通称です。

検索や相談の場面ではこの通称が広く使われているため、本記事でも用語として使用します。ただし、福祉事務所の窓口で制度上の根拠を確認したいときは、「生活保護法第19条の実施責任」という言い方のほうが話が通じやすい場面があります。


居住地主義とは(生活保護法第19条第1項第1号)

居住地主義とは、その人が生活の拠点としている場所、つまり居住地を所管する福祉事務所が保護を担当するという原則です。持ち家でも賃貸でも、住まいが定まっている多くの方は、この原則にあてはまります。

居住地は住民票の住所ではなく「居住の事実」で判断される

もっとも誤解が多いのがこの点です。ここでいう居住地は、住民票がどこにあるかで決まるものではありません。

厚生労働省の保護の実施要領(昭和36年4月1日 厚生省発社第123号 事務次官通知)は、保護の実施責任は要保護者の居住地または現在地により定められるとしたうえで、この場合の居住地とは、要保護者の居住事実がある場所をいうと明記しています。

判断されるのは書類上の登録ではなく、実際にそこで暮らしているという事実です。

一時的にその場所を離れている場合の扱い

同じ通知は、もう一段踏み込んだ定めも置いています。現にその場所に居住していなくても、ほかの場所にいるのが一時的な便宜のためであって、一定の期限が来ればその場所に戻って生活を続けることが期待される場合などには、世帯の認定も勘案したうえで、その場所を居住地として認定するとされています。

つまり、出稼ぎや長期の入院などで一時的に自宅を離れていても、戻ることが前提であれば、元の住まいが居住地として扱われます。今どこにいるかという一点だけで機械的に判断されるわけではありません。


現在地主義とは(生活保護法第19条第1項第2号)

現在地主義とは、居住地がない、または居住地が明らかでない人について、その人が現にいる場所を所管する福祉事務所が保護を担当するという仕組みです。

条文が対象としているのは「居住地がないか、又は明らかでない要保護者であつて、その管理に属する福祉事務所の所管区域内に現在地を有するもの」です。定まった住まいを失っている状況が、まさにこの条文の想定する場面にあたります。

現在地保護が適用される典型的な状況

  • 住まいを失い、路上や公園で夜を過ごしている
  • ネットカフェや簡易宿泊所を転々としている
  • 車中で寝泊まりしている
  • 知人・友人の家を短期間ずつ移りながら滞在している
  • 住民票はあるが、その住所には実際には住んでおらず、現在の生活拠点も定まっていない

「住まいがないと生活保護は申請できない」という説明を受けたという相談は少なくありませんが、条文はむしろ逆で、居住地がない人を現在地の福祉事務所が担当すると明記しています。住まいがないことは、申請できない理由にはなりません。


住民票と実際の住まいが違うときは、どちらで判断されるか

ここまでを踏まえて、実際に迷いやすいケースを整理します。判断の軸は一貫して、住民票ではなく居住の事実がどこにあるかです。

あなたの状況担当する福祉事務所根拠
住民票はA市。実際はB市のアパートで暮らしているB市(居住地)第19条第1項第1号・居住地は居住の事実で判断
住民票はA市。実際はB市で暮らしているが、住まいは定まっていないB市(現在地)第19条第1項第2号
住民票はA市。A市の自宅を残したまま、一時的にB市に滞在しているA市(居住地)実施要領・戻ることが期待される場合は元の場所が居住地
住民票がどこにもない。今はB市にいるB市(現在地)第19条第1項第2号
お客様
お客様

住民票を移していないのですが、今住んでいる市の窓口に行っても大丈夫でしょうか。追い返されないか不安です。

当社担当者
当社担当者

実際にお住まいの市が担当になります。住民票の場所は判断の基準ではありません。窓口で状況をお伝えいただければ、居住の実態にそって確認して進めます。

なお、担当する福祉事務所が決まることと、保護が決定されることは別の話です。生活保護法第7条は、保護は本人・扶養義務者・その他の同居の親族の申請に基づいて開始すると定めており(申請保護の原則)、申請を受けた実施機関は、第24条第5項により原則として申請のあった日から14日以内に決定を通知します。調査に時間を要する場合などは30日まで延ばすことができるとされています。

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急迫した状況にあるときの特例(第19条第2項)

居住地がはっきりしている人であっても、例外的に現在地の福祉事務所が保護を行う場合があります。

生活保護法第19条第2項は、居住地が明らかである要保護者であっても、その人が急迫した状況にあるときは、その急迫した事由が止むまでは、前項の規定にかかわらず現在地を所管する福祉事務所を管理する都道府県知事または市町村長が保護を行うと定めています。

旅行や外出の途中で急病になった、災害に巻き込まれたといった、居住地に戻るのを待っていられない状況が想定されています。

この場合、生活扶助などの基準額を左右する級地区分についても、実施要領は旅先等で急迫保護を必要とする場合は当該要保護者の現在地の級地基準によるとしています。

また、生活保護法第7条のただし書は、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても必要な保護を行うことができると定めています。第25条第1項も、実施機関は要保護者が急迫した状況にあるときは、すみやかに職権をもって保護を開始しなければならないとしています。急いで手を差し伸べるための仕組みが、条文の側に用意されています。


施設や病院に入ったあとの担当自治体

入院や施設入所をきっかけに担当自治体が変わるのかどうかは、判断を誤りやすい領域です。原則として、施設の所在地に担当が移るとは限りません。

保護施設などに入所した場合(第19条第3項)

生活保護法第19条第3項は、第30条第1項ただし書の規定により被保護者を救護施設・更生施設などに入所させ、またはこれらの施設に入所を委託し、あるいは私人の家庭に養護を委託した場合には、その入所または委託の継続中、保護を行うべき者は、入所または委託の前の居住地または現在地によって定めるとしています。施設に入ったからといって、施設のある自治体に負担が移る仕組みにはなっていません。

入院した場合

厚生労働省の社会局長通知(昭和38年4月1日 社発第246号)第2は、居住地のない入院患者について、原則としてその現在地である医療機関の所在地を所管する実施機関が責任を負うとしたうえで、例外を定めています。

  • 入院前の居住地に本人の家財等が保管されている場合や、同じ管内に確実な帰来引受先があり、退院後に必ずその地域に居住することが予定されているときは、入院前の居住地を所管する実施機関が責任を負う
  • 入院と同時に居住地を失った場合、または入院後3か月以内に入院を原因として居住地を失った場合も、入院前の居住地を所管する実施機関が責任を負う

そのほかの施設等

同じ通知は、障害者支援施設に入所した場合や共同生活援助を行う住居に入居した場合には、その期間中は従前の実施機関が引き続き責任を負うとしています。また、刑務所または少年院から釈放・仮釈放された人について帰住地がある場合は、帰住先が出身世帯であるときはその帰住地を居住地とし、そうでないときはその帰住地を現在地とみなすとされています。

配偶者からの暴力の被害者などが一時保護施設に入所している場合については、居住地がない者とみなし、原則として施設の所在地を所管する実施機関が現在地保護を行うと定められています。ただし通知は、被害者の立場に立って広域的な連携を進める観点から、都道府県内または近隣都道府県間で自治体相互の取り決めを定めた場合はそれによって差し支えないとしています。


引越しをしたときに担当はどう変わるか

転居によって居住の事実が移れば、居住地も移ります。したがって、転居先を所管する福祉事務所が新たに担当することになります。

ここで大切なのは、保護が自動的に引き継がれるわけではないという点です。転居先の実施機関があらためて決定を行うため、転居前の福祉事務所と転居先の福祉事務所の双方で手続きが必要になります。

さらに、担当自治体が変わると基準額そのものが変わる可能性があります。生活扶助や住宅扶助の基準額は級地区分に応じて定められており、級地区分は自治体ごとに決まっているためです。同じ世帯構成であっても、転居先の級地区分によって受給額が変わることがあります。

転居を考え始めた段階で、まず現在の担当ケースワーカーに相談してください。転居が認められる要件、転居に伴う費用の扱い、転居先での手続きの流れは、事前に確認しておくことで行き違いを防げます。自治体別の住宅扶助の上限額は、当サイトのエリア別データでも確認できます。


福祉事務所がない町村に住んでいる場合

福祉事務所は、都道府県・市・一部の町村が設置しています。福祉事務所を置いていない町村にお住まいの場合、実施機関はその地域を所管する都道府県の福祉事務所になります。役場に行っても無駄になるのではと心配される方がいますが、そうではありません。

生活保護法第24条第10項は、保護の開始または変更の申請は町村長を経由してすることもできると定めています。申請を受け取った町村長は、5日以内に、扶養義務者の有無・資産及び収入の状況など保護に関する決定の参考となる事項を記載した書面を添えて、保護の実施機関に送付しなければならないとされています。

また、第19条第6項は、福祉事務所を設置しない町村の長は、その町村の区域内で特に急迫した事由により放置することができない状況にある要保護者に対して、応急的処置として必要な保護を行うものとすると定めています。第7項では、要保護者を発見した場合に速やかに実施機関へ通報することなども町村長の役割とされています。

身近な役場の窓口が、制度上の入口として位置づけられているということです。


よくある質問

Q
住民票がない場所でも生活保護を申請できますか?
A

できます。生活保護法第19条第1項は、居住地を有する人についてはその居住地の福祉事務所が、居住地がないか明らかでない人については現在地の福祉事務所が保護を決定し実施しなければならないと定めています。住民票の場所は判断の基準ではありません。

Q
住民票を移さずに引越した場合、どちらの福祉事務所に行けばよいですか?
A

実際に暮らしている場所を所管する福祉事務所です。厚生労働省の実施要領は、居住地とは要保護者の居住事実がある場所をいうと定めており、書類上の登録ではなく居住の実態で判断されます。

Q
ネットカフェや車中泊で生活しています。どこで申請できますか?
A

今いる場所を所管する福祉事務所が担当します。定まった住まいがない状態は、生活保護法第19条第1項第2号がいう「居住地がないか、又は明らかでない」場合にあたり、現在地の実施機関が保護を決定し実施することとされています。

Q
旅行先で急に体調を崩した場合はどうなりますか?
A

生活保護法第19条第2項により、居住地が明らかであっても急迫した状況にあるときは、その事由が止むまで現在地の実施機関が保護を行います。実施要領では、旅先等で急迫保護を必要とする場合の級地基準も現在地によるとされています。

Q
入院している間に住まいを失いました。担当はどこになりますか?
A

厚生労働省の社会局長通知は、入院と同時に居住地を失った場合や、入院後3か月以内に入院を原因として居住地を失った場合には、入院前の居住地を所管する実施機関が責任を負うと定めています。まずは入院前にお住まいだった地域の福祉事務所にご相談ください。

Q
刑務所を出たあとはどこで申請できますか?
A

社会局長通知は、刑務所または少年院から釈放・仮釈放された人について帰住地がある場合、帰住先が出身世帯であるときはその帰住地を居住地とし、そうでないときはその帰住地を現在地とみなすとしています。いずれの場合も帰住先の地域が起点になります。

Q
引越しをすると生活保護は打ち切られますか?
A

転居そのものが打ち切りの理由になるわけではありませんが、担当する実施機関が転居先に変わるため、あらためて手続きが必要です。また級地区分が変わると基準額も変わることがあります。転居を考えた段階で担当のケースワーカーにご相談ください。

Q
町に福祉事務所がありません。どこに相談すればよいですか?
A

福祉事務所を設置していない町村の場合、実施機関は都道府県の福祉事務所です。ただし生活保護法第24条第10項により、申請は町村長を経由して行うこともでき、町村長は5日以内に必要書面を添えて実施機関へ送付することとされています。まずはお住まいの役場にご相談ください。

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まとめ

生活保護を担当する福祉事務所は、住民票のある場所ではなく、居住地または現在地によって決まります。生活保護法第19条第1項は、居住地がある人はその居住地の実施機関が、居住地がないか明らかでない人は現在地の実施機関が保護を決定し実施すると定めています。居住地は書類上の住所ではなく居住の事実で判断されるため、住民票を移していないことも、住まいがないことも、相談をあきらめる理由にはなりません

急迫した状況にあるときは現在地の実施機関が保護を行い、施設入所や入院の場合は入所前の居住地または現在地を基準に担当が決まります。転居した場合は転居先の実施機関があらためて担当し、級地区分によって基準額が変わることもあります。

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