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生活保護受給者の人権と尊厳 | 不当な扱いを受けたときの対処法

生活保護受給者の人権と尊厳 | 不当な扱いを受けたときの対処法 生保の基礎

「ケースワーカーに強い口調で言われた」「窓口で見下されるような態度を取られた」。生活保護を利用していると、そうした場面に出くわすことがあります。声を上げたら保護を切られるのではないかと考えて、黙って耐えている方も少なくありません。

けれども生活保護は権利です。ケースワーカーの指導や指示には法律上の限界があり、納得できない処分には正式な不服申立ての手続きが用意されています。この記事では、実際に不当な扱いを受けたときに何をすればよいかを、順を追って説明します。

解説にあたっては、生活保護法と行政不服審査法の条文、および厚生労働省の通知を根拠として示します。とくに不服申立ての期限については、いまも誤った期間を掲載しているサイトが複数あるため、正しい期間とその根拠をはっきり書きます。まずは、あなたが法律上どのような立場に置かれているのかを確認するところから始めましょう。


生活保護を受けていても、人としての権利は減らない

生活保護は、困った人が「お願いして恵んでもらう制度」ではありません。日本国憲法第25条の理念にもとづき、法律が定めた権利として保障されています。この出発点を押さえておくと、窓口での対応に納得できないときに、自分が何を根拠に声を上げられるのかが見えてきます。

生活保護法第1条は、この法律の目的を「最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長すること」と定めています。保障と自立の助長は並び立つ目的であり、どちらか一方のために他方を犠牲にしてよいとは書かれていません。

続く第2条は「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる」と定めています。年齢や性別、家族構成、過去の経歴によって扱いを変えてよいという規定は、どこにもありません。制度の考え方そのものは、生活保護法の目的で詳しく解説しています。

決まった保護を、正当な理由なく減らされることはない

生活保護法第56条は「被保護者は、正当な理由がなければ、既に決定された保護を、不利益に変更されることがない」と定めています。いったん決定された保護費や保護の内容を、あとから一方的に減らしたり打ち切ったりすることはできない、という意味です。

ここでいう「正当な理由」とは、収入が増えた、世帯の人数が変わったなど、法律にもとづく事由を指します。担当者との相性が悪い、態度が気に入らない、といったことは正当な理由になりません。

保護費に税金はかからず、差し押さえもされない

第57条は、保護として支給された金品に税金を課すことを禁じています。第58条は、その金品や保護を受ける権利を差し押さえることを禁じています。借金の取り立てのために保護費を差し押さえる、といったことは認められていません。

これらは申請して認めてもらう類のものではなく、受給が始まった時点で当然に備わっている地位です。「権利として保障されている」とは、こうした具体的な条文の積み重ねを指しています。

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ケースワーカーの指導・指示には法律上の限界がある

福祉事務所のケースワーカーは、受給者に対して指導や指示を行う権限を持っています。ただしその権限は無制限ではありません。生活保護法そのものが、三重の歯止めをかけています。

指導・指示は「必要の最少限度」にとどめなければならない

第27条第1項は、保護の実施機関が「生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる」と定めています。ここだけを読むと、何でも指示できるように見えます。

しかし続く第2項が、こう限定しています。「前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない」。目的の達成に必要な範囲を超えた指図は、法の想定から外れます。

さらに第27条の2は、相談や助言について「要保護者から求めがあつたとき」に行うものと位置づけています。頼んでもいない生活全般への口出しが、当然に許されているわけではありません。

意に反して強制することはできない

第27条第3項は、はっきりとこう書いています。「第一項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない」。

指導・指示という制度は、本人の意思を押し切って従わせるための道具ではない、と法律自身が宣言しているわけです。

ただしこれは「何を言われても従わなくてよい」という意味ではありません。正当な指示に従わなかった場合、第62条により保護の変更・停止・廃止という不利益な処分につながる可能性はあります。強制されないことと、従わなくても何も起きないことは別です。

納得できない指示を受けたときに大切なのは、その場で拒むことよりも、なぜその指示が必要なのかを説明してもらい、やりとりを記録に残すことです。

保護を止める前には、必ず弁明の機会が与えられる

第62条は、指示等に従わないことを理由に保護の変更・停止・廃止をする場合、実施機関は当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならないと定めています。しかも、あらかじめ処分しようとする理由と、弁明をすべき日時・場所を通知しなければなりません。

言い渡されて終わり、ではないということです。もし何の予告もないまま保護を止められたのであれば、その手続き自体に問題があった可能性があります。

弁明の機会は、感情をぶつける場ではなく、事情を説明して記録に残す場です。話した内容は必ず控えを取っておきましょう。


実際に起こりやすい場面と、その場でできること

法律の条文だけでは、自分の状況が「不当な扱い」に当たるのか判断しづらいものです。相談として持ち込まれることの多い場面を、3つに分けて整理します。

福祉事務所の窓口や家庭訪問での場面

強い口調で問い詰められた、他の来庁者に聞こえる場所で保護費の話をされた、私生活について繰り返し細かく問われた。こうした場面では、まず「何のために必要な確認なのか」を尋ねてください。第27条第2項の「必要の最少限度」に照らして、答えられない要求であれば、そこに線を引く根拠があります。

家庭訪問そのものは、生活保護法第28条第1項にもとづく調査であり、正当な理由なく拒み続けると、同条第5項により保護の変更・停止・廃止につながる可能性があります。体調やご家族の事情で室内に入られるのが難しいときは、黙って断るのではなく、事情を伝えて日程や方法の相談をしてください。

ケースワーカーの役割そのものについては、ケースワーカーとはで詳しく解説しています。

転居や就労をめぐる指示を受けた場面

「この家賃では高いから引っ越しなさい」「来月までに就職しなさい」といった指示は、指導・指示として行われます。これらは第27条の枠内で行われるべきもので、期限や条件が一方的に押しつけられるものではありません。

転居を求められた場合の考え方は、生活保護の転居指導とはにまとめています。

住まい探しで断られた場面

不動産会社で「生活保護の方はお断りしています」と言われることがあります。これは福祉事務所ではなく民間事業者とのやりとりですが、受けるダメージは決して小さくありません。

この場面については専用の解説を用意しています。生活保護で不動産に断られた時の対処法と、生活保護の賃貸審査をあわせてご覧ください。


不当な扱いを受けたときの3つの段階

対処には順番があります。いきなり最後の手段に飛ぶ必要はありませんし、逆に第1段階を飛ばすと、後の手続きで不利になります。

第1段階 記録を残す

何よりも先に記録です。日付と時刻、場所、対応した職員の氏名、言われた内容を、できるだけそのままの言葉で書き留めてください。同席した人がいれば、その名前も残します。

記録は、あとで審査請求をするときの土台になります。記憶だけでは「言った・言わない」で止まってしまいます。手帳でもスマートフォンのメモでも構いません。その日のうちに書くことが大切です。

保護の変更・停止・廃止といった処分を受けた場合は、必ず書面の通知を受け取ってください。この通知書が、次の段階の起点になります。

通知書は封筒ごと保管し、受け取った日を封筒か余白に書き込んでおくと確実です。あとで説明する審査請求の期限は、この「受け取った日」から数えます。書き留めていなかったために起算日があいまいになる例は少なくありません。

第2段階 福祉事務所に申し入れる

担当者との間で解決しないときは、その上司にあたる職員(査察指導員と呼ばれます)や福祉事務所長に相談することができます。自治体の福祉担当課に申し入れる方法もあります。

このとき、第1段階の記録が効きます。感情ではなく事実を並べて、「いつ・誰が・何を言ったのか」「どの条文に照らして疑問があるのか」を伝えてください。

第3段階 審査請求をする

保護の申請却下、変更、停止、廃止といった処分に納得できない場合は、都道府県知事に対して審査請求ができます(生活保護法第64条)。福祉事務所に苦情を言うこととは違い、法律にもとづく正式な手続きです。

期限は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内です(行政不服審査法第18条第1項)。また、処分の日の翌日から1年を経過すると原則としてできなくなります(同条第2項)。

審査請求を受けた審査庁は、50日以内に裁決をしなければなりません(生活保護法第65条第1項。第三者機関に諮問する場合は70日)。この期間内に裁決がないときは、棄却されたものとみなして次の手続きに進むことができます。

審査請求は、口頭でできる旨の定めがある場合を除き、審査請求書という書面を提出して行います(行政不服審査法第19条第1項)。提出先は都道府県の担当課ですが、自治体によっては処分をした福祉事務所を経由して提出できる場合もあります。どこに出せばよいかわからないときは、通知書を出した福祉事務所に「審査請求をしたい」と伝えれば案内してもらえます。

知事の裁決にも納得できない場合は、厚生労働大臣に再審査請求ができます。期限は裁決があったことを知った日の翌日から1か月以内です。


よくある誤解と実際

この分野は、誤った情報が広く出回っています。とくに次の4つは、読者が不利益を被りかねないものです。

誤解1「審査請求は60日以内にしなければならない」

現在は誤りです。正しくは3か月以内です。

「60日」という数字は、2016年3月31日以前にされた処分に適用されていた旧法の期間です(行政不服審査法 附則第3条)。2016年4月1日に改正法が施行され、期間は3か月に延びました。

いまも「60日以内」と書いているサイトが実在します。短い期間を信じてあきらめてしまうことのないよう、通知書を受け取ったら日付を確認してください。

誤解2「苦情を言うと保護を打ち切られる」

生活保護法第56条により、正当な理由がなければ、決定された保護を不利益に変更されることはありません。苦情を述べたことそれ自体は、正当な理由にあたりません。

誤解3「言われたことには全部従わないといけない」

第27条第3項が、意に反して強制することはできないと定めています。ただしすでに述べたとおり、正当な指示に従わない場合は不利益な処分につながる可能性があります。従うか否かを一人で判断せず、記録を残したうえで相談してください。

誤解4「弁護士に頼むとお金がかかる」

生活保護の申請や審査請求の代理を弁護士に依頼する場合、基本的に費用はかかりません。日本弁護士連合会の委託援助事業という枠組みで、法テラスから弁護士へ費用が支払われる仕組みがあるためです。


人権侵害について相談できる窓口

福祉事務所とのやりとりでは解決しない場合、外部の窓口があります。ここでは人権に特化した窓口を挙げます。

法務省のみんなの人権110番(0570-003-110)は、全国共通の人権相談ダイヤルです。かけると最寄りの法務局につながり、法務局職員または人権擁護委員が相談に応じます。受付は平日8時30分から17時15分までです。2025年10月からは自動音声ガイダンスで振り分けられ、女性は1番、高齢者は2番、障害者は3番、その他は4番を押します。

電話が苦手な方には、法務局のインターネット相談(24時間受付)やLINEでの相談、窓口での面接相談もあります。

法律相談が必要な場合は、法テラス(日本司法支援センター)を利用できます。収入と資産が資力基準以下であれば無料の法律相談を受けられ、生活保護を受給中の方は通常この基準に該当します。弁護士費用の立替制度もあり、受給中は償還が猶予され、終結後に申請することで免除となる場合があります。

福祉事務所を含む相談窓口の全体像は、生活保護の相談窓口一覧と利用方法にまとめています。

よくある質問

Q
ケースワーカーの言うことには必ず従わなければいけませんか
A

生活保護法第27条第3項は、被保護者の意に反して指導や指示を強制することはできないと定めています。一方で、正当な指示に従わない場合、第62条により保護の変更・停止・廃止につながる可能性があります。一人で判断せず、指示の理由を説明してもらい、記録を残したうえで相談してください。

Q
苦情を言うと保護を打ち切られませんか
A

第56条により、正当な理由がなければ、既に決定された保護を不利益に変更されることはありません。苦情を述べたこと自体は正当な理由にあたりません。

Q
審査請求の期限は60日ですか、3か月ですか
A

3か月です。処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内と定められています(行政不服審査法第18条第1項)。「60日」は2016年3月31日以前にされた処分に適用された旧法の期間で、現在の処分には当てはまりません。

Q
「処分があったことを知った日」とはいつのことですか
A

決定通知書または却下通知書を受領した日を指します。厚生労働省の通知(昭和38年 社保第40号)は、職員から決定を聞き知った日や、通知書を発送したと聞いた日は該当しないとしています。

Q
申請したのに通知が来ないときも審査請求できますか
A

できます。申請から30日以内に通知を受けなかった場合も、審査請求の対象とされています。

Q
審査請求を弁護士に頼むとお金がかかりますか
A

生活保護の申請や審査請求の代理については、基本的に費用はかかりません。日本弁護士連合会の委託援助事業により、法テラスから弁護士へ費用が支払われる仕組みがあります。まずはお住まいの地域の弁護士会や法テラスにご相談ください。

Q
家庭訪問は断れますか
A

家庭訪問は生活保護法第28条第1項にもとづく調査です。正当な理由なく拒み、妨げ、または忌避した場合、同条第5項により申請の却下や保護の変更・停止・廃止をされる可能性があります。体調などの事情があるときは、その事情を伝えて日程や方法の相談をしてください。

Q
審査請求の結果はどのくらいで出ますか
A

審査庁は審査請求から50日以内に裁決をしなければなりません(生活保護法第65条第1項)。第三者機関に諮問する場合は70日です。この期間内に裁決がないときは、棄却されたものとみなして次の手続きに進むことができます。


まとめ

生活保護を利用していても、人としての権利が減ることはありません。決定された保護は正当な理由なく不利益に変更されず(第56条)、ケースワーカーの指導・指示は必要の最少限度にとどめられ(第27条第2項)、意に反して強制することはできません(第27条第3項)。保護を止める前には弁明の機会が与えられます(第62条)。

不当な扱いを受けたときは、記録を残す、福祉事務所に申し入れる、審査請求をするという3段階で対処できます。審査請求の期限は、通知書を受領した日の翌日から3か月です。「60日」ではありません。

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