生活保護を受けている方が引越しをするときは、ふつうの引越しの手続きに加えて、福祉事務所とのやりとりが欠かせません。しかも、手続きの順番が大切です。契約や引越しを先に済ませてしまうと、本来なら認められたはずの費用が出ないことがあります。
この記事では、引越しの手続きを「引越しの前」と「引越しの後」に分けて、順番どおりに整理します。とくに、これまで説明されることの少なかった引越しの後の手続き(住民票の届出、福祉事務所への届出、別の市区町村へ移ったときに担当の福祉事務所が変わること)を詳しく扱います。
手続きの根拠は、生活保護法・住民基本台帳法・マイナンバー法の条文と、厚生労働省の通知「生活保護法による保護の実施要領」で確かめています。引越しの費用がどこまで出るかは、別の記事で詳しく解説しています。
生活保護を受けながら引越すときの手続きの全体像
手続きは、大きく「引越しの前」と「引越しの後」に分かれます。やりとりの相手は、福祉事務所(担当のケースワーカー)と、市区町村の住民票の窓口の2つです。
| 時期 | すること | 手続きの相手 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 引越しの前 | 引越したい理由を伝え、費用が出るかを確かめる | 今の福祉事務所 | 厚生労働省の通知(実施要領) |
| 引越しの前 | 新しい部屋が住宅扶助の上限に収まるかを確かめ、福祉事務所の判断を受けてから契約する | 今の福祉事務所・不動産会社 | 同上 |
| 引越しの前 | 別の市区町村へ移るときは、転出届を出す | 今の市区町村 | 住民基本台帳法第24条 |
| 引越しの後(14日以内) | 転入届(別の市区町村から移ったとき)か、転居届(同じ市区町村の中での引越し)を出す | 新しい住所の市区町村 | 住民基本台帳法第22条・第23条 |
| 引越しの後(すみやかに) | 住所が変わったことを届け出る | 福祉事務所 | 生活保護法第61条 |
| 引越しの後 | 前の部屋の敷金が戻ってきたら、そのことも届け出る | 福祉事務所 | 厚生労働省の通知(実施要領の取扱い) |
| 引越しの後 | 別の市区町村へ移ったときは、新しい住所を受け持つ福祉事務所が担当になる | 新しい福祉事務所 | 生活保護法第19条第1項 |
押さえておきたいのは、契約と引越しの前に福祉事務所へ相談することと、引越しの後に住民票と福祉事務所の両方へ届け出ることの2つです。以下、順番に見ていきます。
引越しの前(1)担当のケースワーカーに相談する
引越し先は、原則として本人が選べる
生活保護を受けていても、引越しはできます。大阪市は、市民の声への回答で次のように説明しています。
「生活保護を受給されている方の居住地については、住宅扶助の上限額の制約があるものの、どこにお住まいになるかについては原則ご本人の意思が尊重されます。」
ただし、引越しの費用が保護費から出るかどうかは、別の話です。同じ回答は、「転居費用を保護費から支給する場合は、必要性・妥当性を確認するため、事前に申請いただき、福祉事務所の決定が必要です」としたうえで、事前の手続きがない場合は「支給ができないまたは支給範囲が限定されることがあります」と続けています。
費用は「事前の承認」が前提になっている
厚生労働省の通知(生活保護法による保護の実施要領)も、転居するときの荷造りや運搬の費用について、転居が「真にやむを得ないとき」に、「実施機関が事前に承認した必要最小限度の額」を認めるとしています。
敷金などについても、同じ通知は、家賃が一定の上限(特別基準額)以内の住まいへ移るときに、その額の3倍までの範囲で認めてよいとしています。どのような事情なら引越しの費用が認められるのか、敷金などにどの費用が含まれるのかは、生活保護で引越し費用は支給される?で詳しく解説しています。
福祉事務所の側から引越しを求められる「転居指導」を受けている場合の進め方は、生活保護の転居指導とはを参考にしてください。
相談のときに伝えること
大阪市は、判断にあたって次の点を確認すると説明しています。相談の前に、手元で整理しておきましょう。
あわせて大阪市は、大家さんから立退料を受け取った場合は転居の費用にあててもらい、余った分は返還を求めるとしています。
引越しの前(2)新しい部屋を選び、判断を受けてから契約する
住宅扶助の上限に収まる部屋を選ぶ
家賃にあてる住宅扶助には、地域と世帯の人数ごとに上限があります。上限を超える家賃の部屋について、東京都国立市のしおりは「家賃が保護の基準額を超えている場合、生活費を圧迫し最低生活の維持が困難になるため、転宅を求める場合があります」と説明しています。
上限は、引越し先の地域で決まります。単身世帯の例では、東京都の23区が月53,700円、埼玉県の所沢市が月47,700円、神奈川県の平塚市や茅ヶ崎市が月41,000円です。同じ世帯でも引越し先によって上限が変わるため、今の上限のつもりで部屋を探さないようにしましょう。地域ごとの上限は、住宅扶助の上限額の一覧で確かめられます。
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家賃上限(住宅扶助)上限内チェック診断
気になっている物件が家賃上限(住宅扶助)上限の範囲内かどうか、1分でチェックできます。床面積別逓減や共益費の取り扱いも含めて自動判定されます。
申込みや契約は、福祉事務所の判断が出てから
部屋の候補が決まったら、家賃や契約の条件、費用の見積りを福祉事務所に伝え、判断を受けてから契約します。先に契約を済ませると、先に見たとおり、費用が認められなかったり、認められる範囲が限られたりすることがあります。
受給中に部屋を借りるときの条件や物件選びのポイントは、生活保護でアパートを借りる条件でも紹介しています。
別の市区町村へ移るときは、先に転出届を出す
住民基本台帳法第24条は、「転出をする者は、あらかじめ、その氏名、転出先及び転出の予定年月日を市町村長に届け出なければならない。」と定めています。別の市区町村へ引っ越すときは、引越しの前に、今の市区町村へ転出届を出します。同じ市区町村の中での引越しなら、転出届は要りません。
引越し先で転入届を出すときは、前の住所の市区町村長が作成する「転出証明書」を添えます(同法第22条第2項・住民基本台帳法施行令第23条)。ただし、マイナンバーカードを持っている方が転出届を出した場合は、引越し先での最初の転入届のときに、この書類を添えなくてよい特例があります(同法第24条の2。政令で定める場合を除く)。
引越しの後(1)住民票の届出は14日以内
引越しが済んだら、新しい住所の市区町村で住民票の届出をします。期限は、住民基本台帳法で決まっています。
| 引越しの形 | 届出 | 期限 | 出す先 |
|---|---|---|---|
| 別の市区町村へ引っ越した | 転入届 | 転入した日から14日以内 | 新しい住所の市区町村 |
| 同じ市区町村の中で引っ越した | 転居届 | 転居した日から14日以内 | 住んでいる市区町村 |
| (引越しの前)別の市区町村へ引っ越す | 転出届 | あらかじめ(引越しの前) | 今の市区町村 |
転入届では、氏名、住所、転入した日、前の住所などを届け出ます(同法第22条第1項)。マイナンバーカードを持っている方は、転入届と同時にカードを窓口に提出する必要があります(マイナンバー法=行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律 第17条第6項)。
担当の福祉事務所は、住民票ではなく実際に住む場所で決まる
厚生労働省の通知は、保護の実施責任は居住地または現在地によって決まり、「居住地とは、要保護者の居住事実がある場所をいう」としています。担当の福祉事務所を決めるのは、住民票の住所ではなく、実際に暮らしている場所です。
ただし、住民票の届出は法律で決められた義務です。14日の期限を過ぎないように届け出ましょう。住民票と担当の関係は、現在地主義と居住地主義の違いで詳しく解説しています。
引越しの後(2)福祉事務所への届出
生活保護法第61条は、受給している方に、次のような届出を義務づけています。
「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」
引越しは「居住地の異動」にあたります。引越しが済んだら、すみやかに福祉事務所へ届け出てください。住宅扶助は上限の範囲で実際の家賃をもとに決まるので、新しい家賃を早めに伝えることが大切です。
届出のときに何を出せばよいか(新しい住まいの契約書の写しなど)は、引越しの日程が決まった段階で、担当のケースワーカーに確かめておきましょう。
前の部屋の敷金が戻ってきたら
引越しで前の部屋を出ると、敷金の一部が戻ってくることがあります。厚生労働省の通知(生活保護法による保護の実施要領の取扱い)は、保護を受けている方に敷金が返還される場合について、次のように定めています。
「当該返還金は当該月以降の収入として認定すべきものである。ただし、実施機関の指導又は指示により転居した場合においては、当該返還金を転居に際して必要とされる敷金等に当てさせて差しつかえない。」
戻ってきた敷金は、原則として収入として扱われます。生活保護法第61条は収入の変動も届け出るよう定めているので、受け取ったら福祉事務所に届け出ましょう。福祉事務所の指導や指示で引越した場合は、戻ってきた敷金を、引越し先の敷金などにあてるよう扱われることがあります。
家賃の代理納付を使っている方
家賃を福祉事務所から大家さんなどへ直接払う「代理納付」を使っている方は、引越しで支払い先が変わります。手続きのしかたを、担当のケースワーカーに確かめてください。仕組みは生活保護の代理納付とはで紹介しています。
別の市区町村へ引っ越すと、担当の福祉事務所が変わる
生活保護を決めて実施する福祉事務所は、住んでいる場所で決まります。生活保護法第19条第1項は、市長などが保護を決定し実施する相手として、「その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者」を挙げています。
別の市区町村へ引っ越して住む場所が変われば、新しい住所を受け持つ福祉事務所が担当になります。厚生労働省は「生活保護の要件を満たす限り、誰でも無差別平等に受けることができます」としており、引越し先でも、要件を満たしていれば保護を受けられます。
引越しで変わることがあるもの
引越し先での手続きは、日程が決まったら確かめる
引越しの前後に、今の福祉事務所と引越し先の福祉事務所のあいだで何が行われるのか、引越し先で何を出せばよいのかは、引越しの日程が決まった段階で、今の担当ケースワーカーに確かめてください。引越し先の福祉事務所にも、あらかじめ連絡しておくと安心です。
引越し先の福祉事務所の場所や連絡先は、エリア別の生活保護情報でも紹介しています。
例:東京23区から神奈川県茅ヶ崎市へ、ひとり暮らしで引っ越す場合
ここまでの流れを、具体的な例に当てはめてみます。東京都の23区で生活保護を受けているひとり暮らしの方が、神奈川県茅ヶ崎市へ引っ越す場合です。
- 今の区の福祉事務所に相談する:引越したい理由、費用の見積り、引越し先の家賃と契約の条件を伝える
- 茅ヶ崎市の上限で部屋を探す:単身の住宅扶助の上限は、23区の月53,700円に対して茅ヶ崎市は月41,000円。12,700円低いため、今の上限のつもりで探さない
- 福祉事務所の判断を受けてから契約する
- 引越しの前に、今の区役所へ転出届を出す
- 引越しの後14日以内に、茅ヶ崎市役所へ転入届を出す:転出証明書を添える(マイナンバーカードを持っている方が転出届を出していれば、添えなくてよい特例がある)。カードを持っている方は、カードも提出する
- 茅ヶ崎市の福祉事務所に届け出る:茅ヶ崎市で生活保護を担当しているのは、市役所分庁舎2階の福祉部 生活支援課(電話 0467-81-7158)
- 前の部屋の敷金が戻ってきたら届け出る
茅ヶ崎市の「生活保護のしおり」は、保護費は「毎月原則5日(定例支給日)に支給されます」とし、5日が土日・祝日のときは直前の平日としています。引越し先の支給日も、あわせて確かめておきましょう。
費用が認められにくくなる、避けたい順番
ここまでの内容から、引越しの手続きでつまずきやすい順番をまとめます。
どれも、「先に福祉事務所の判断を受ける」「後で必ず届け出る」という順番を守れば避けられます。費用を認めないという決定に納得できないときは、審査請求という手続きがあります。手順は申請が却下されたときの審査請求の手順と書き方で解説しています。
よくある質問
- Q生活保護を受けていても、引越しはできますか?
- A
できます。大阪市は、住まいについて「住宅扶助の上限額の制約があるものの、どこにお住まいになるかについては原則ご本人の意思が尊重されます」と説明しています。ただし、引越しの費用が保護費から出るかどうかは、事前の申請と福祉事務所の決定しだいです。
- Q引越しの費用は必ず出ますか?
- A
必ずではありません。厚生労働省の通知は、転居するときの荷造りや運搬の費用について、転居が真にやむを得ない場合に、福祉事務所が事前に承認した必要最小限度の額を認めるとしています。引越しを決める前に、担当のケースワーカーに相談してください。
- Q住民票はいつまでに移せばよいですか?
- A
引越した日から14日以内です。別の市区町村から移ったときは転入届を、同じ市区町村の中で引っ越したときは転居届を出します。別の市区町村へ移るときは、引越しの前に今の市区町村へ転出届を出しておきます。
- Q住民票を移さなければ、担当の福祉事務所は変わりませんか?
- A
担当は住民票ではなく、実際に住んでいる場所で決まります。厚生労働省の通知は、居住地を「要保護者の居住事実がある場所」としています。ただし、住民票の届出は法律上の義務なので、期限内に届け出てください。
- Q同じ市の中での引越しでも、福祉事務所に届け出る必要がありますか?
- A
あります。生活保護法第61条は、居住地に異動があったときは、すみやかに届け出るよう定めています。同じ市区町村の中での引越しでも住む場所は変わるので、届出が必要です。
- Q別の県へ引っ越すと、保護費の額は変わりますか?
- A
変わることがあります。生活扶助の基準額は地域の区分(級地)によって違い、住宅扶助の上限も地域ごとに決まっているためです。たとえば単身世帯の住宅扶助の上限は、東京都の23区が月53,700円、神奈川県の茅ヶ崎市が月41,000円です。
- Q前の部屋の敷金が戻ってきたら、どうなりますか?
- A
厚生労働省の通知は、保護を受けている方に返還された敷金を、原則として返還された月以降の収入として認定するとしています。受け取ったら、福祉事務所に届け出てください。福祉事務所の指導や指示で引越した場合は、戻ってきた敷金を引越し先の敷金などにあてさせてよいとされています。
- Q引越し先でも、保護費の支給日は同じですか?
- A
同じとは限りません。支給日は福祉事務所ごとに案内されています。引越し先の福祉事務所の支給日は、転居の手続きのときに確かめてください。
まとめ
生活保護を受けながら引越すときの手続きを、順番どおりにまとめます。
- 引越し先は原則として本人が選べるが、住宅扶助の上限の範囲で選ぶ
- 費用を出してもらうには、契約や引越しの前に福祉事務所へ相談し、判断を受ける
- 別の市区町村へ移るときは、引越しの前に転出届を出す
- 引越しの後は、14日以内に転入届か転居届を出す(マイナンバーカードを持っている方は、カードも提出する)
- 引越しが済んだら、すみやかに福祉事務所へ届け出る(生活保護法第61条)。前の部屋の敷金が戻ってきたときも届け出る
- 別の市区町村へ移ると担当の福祉事務所が変わり、保護費の額や支給日が変わることがある
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