福祉事務所の窓口へ行ったのに、申請書を渡してもらえなかった。「まだ若いから働けますよね」「まず親族に頼ってください」と言われて、そのまま帰ることになった。こうした対応は「水際作戦」と呼ばれ、申請そのものをあきらめさせる形で働きます。
ただ、制度の側はこれを認めていません。厚生労働省は自治体あての事務連絡で、「法律上認められた保護の申請権を侵害しないことはもとより、侵害していると疑われるような行為も厳に慎むべきである」と明記しています。
この記事では、窓口で言われがちな言葉のどこが制度と食い違っているのかを、条文と通知にあたって1つずつ確かめます。そのうえで、断られたときに実際にできることを順にまとめます。申請の基本的な流れは、申請から受給開始までの6ステップにあります。
出発点 — 申請は「する側」が決めるもの
生活保護法 第7条は、保護の始まり方をこう定めています。
保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる。
「申請に基いて開始する」。保護が始まるかどうかの入口は、本人の申請です。窓口が「申請してよいかどうか」を判断する仕組みにはなっていません。窓口の役割は、申請を受け付けたうえで、要件を満たすかどうかを調査して決定することです。

この順序が大切です。受けられるかどうかは、申請した後に決まります。窓口での会話の段階で「あなたは対象外です」と結論が出ることは、制度の想定にありません。
条文の後半にある「但し書き」も見ておいてください。「要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる」。つまり、待てない状況にある人については、申請を待たずに保護できる仕組みまで用意されています。
所持金が尽きている、今夜泊まるところがない、薬が切れて受診できない。そうした状況であれば、その事実をはっきり窓口に伝えてください。厚生労働省の事務連絡も、所持金のない人については「法定処理期間内で可及的速やかに決定すること」を求めています。「後日また来てください」で済む話ではありません。
申請書を書けない事情があっても、申請はできる
2013年(平成25年)の改正で、申請の手続きが条文に書き込まれました。生活保護法 第24条第1項は、申請する人は必要事項を記載した申請書を提出する、と定めています。ただし、同じ条文にはこう続きます。
ただし、当該申請書を作成することができない特別の事情があるときは、この限りでない。
書面が原則である一方、書面を用意できない事情があるときに、それを理由として申請を受け付けないことはできないと、法律そのものが定めています。「書類がそろっていないから、そろってから来てください」という対応は、この条文と食い違います。必要書類の実際については、申請に必要な書類の記事をご覧ください。
厚生労働省が「厳に慎むこと」と示している対応
厚生労働省社会・援護局保護課は、令和2年(2020年)9月11日付の事務連絡「現下の状況における適切な保護の実施について」で、自治体に対して次の点を示しました。
法律上認められた保護の申請権を侵害しないことはもとより、侵害していると疑われるような行為も厳に慎むべきである。
注目すべきは「侵害していると疑われるような行為も」という部分です。実際に申請を拒んだかどうかだけでなく、そう受け取られかねない対応まで含めて慎むべきだと示されています。
同じ事務連絡は、具体的な対応についても次のように示しています。
| 示されている内容 | 意味 |
|---|---|
| 扶養照会を申請の前提条件としないこと | 「家族に聞いてからでないと受け付けられない」は不適切 |
| 「扶養が保護の要件であるかのごとく説明を行う」対応は不適切 | 親族の扶養は要件ではない |
| 無料低額宿泊所への入所を申請の条件としないこと | 「施設に入るなら受け付ける」は不適切 |
| 居住用の不動産の処分を相談の段階で一方的に判断しないこと | 「持ち家は売ってから」と窓口で結論を出さない |
| 所持金がない人には、法定の処理期間内で可及的速やかに決定すること | 急いでいる人を待たせない |
| 通勤用の自動車は、保護開始から概ね1年を目途に保有を認めること | 「車があるから無理」と即断しない |
この事務連絡は新型コロナウイルスの影響が広がっていた時期に出されたものですが、示されている内容は、申請権の扱いという制度の基本にかかわるものです。窓口での対応に疑問があるときは、この文書を検索して窓口で示すこともできます。
窓口で言われがちな5つの言葉と、制度上の答え
1「まず家族に相談してください」
親族による扶養は、保護の要件ではありません。厚生労働省の事務連絡も「扶養が保護の要件であるかのごとく説明を行うといった対応は不適切」としています。扶養照会は保護を決めた後の手続きであって、申請の前提条件ではありません。
現在の扶養照会は、本人の意向を確かめたうえで慎重に扱う運用へと変わっています。対象になる親族の範囲と、連絡を控えてもらえるケースについては、扶養照会の記事にまとめています。
2「まだ若いので働けますよね」
年齢そのものは要件ではありません。判断されるのは「能力に応じて働いているか」であって、年齢で線を引く仕組みにはなっていません。病気やけがで働けない事情があれば当然に考慮されますし、働いていても収入が最低生活費に足りなければ受給できます。
要件の中身は生活保護の受給条件4つに、病気やけがの扱いは病気で働けない時の生活保護にまとめています。
3「住所がないと申請できません」
住所が定まっていなくても申請できます。生活保護はいま現にいる場所(現在地)を基準に実施する仕組みを持っているためです。詳しくは住所不定でも申請できる仕組みと、現在地主義と居住地主義の違いにまとめています。
4「持ち家や車があると受けられません」
どちらも「あるから受けられない」わけではありません。厚生労働省の事務連絡は、居住用の不動産について相談の段階で一方的に処分を判断しないこと、通勤用の自動車について保護開始から概ね1年を目途に保有を認めることを示しています。
持ち家の扱いは持ち家があっても生活保護は受けられるかに、車をはじめとする保有の可否は受給中にできること・できないことにまとめています。
5「まず生活困窮者の相談窓口へ行ってください」
生活困窮者自立支援制度は、生活保護に至る前の段階を支える仕組みで、それ自体は有用です。ただしそちらへ行くことが、生活保護の申請の条件になるわけではありません。事務連絡も、自立相談支援機関と福祉事務所の「密接な連携」を求めており、たらい回しを求めてはいません。
2つの制度の違いは、生活困窮者自立支援制度と生活保護の違いで整理しています。並行して相談することもできます。
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なぜこうした対応が起きるのか — 構造を知っておく
窓口の対応を「意地悪」と受け取ると、話がこじれます。実際には、制度の側に構造的な事情があることを知っておくと、冷静に対処しやすくなります。
社会福祉法 第16条は、福祉事務所で実務にあたる職員(現業員)の人数の標準を定めています。市が設置する事務所の場合、受け持つ世帯が240以下なら3人、そこから80世帯増えるごとに1人を加える、という定め方です。つまり職員1人あたり、およそ80世帯が標準ということになります。
ここで大切なのは、条文が「標準として定めるものとする」と書いていることです。義務ではなく目安なので、実際の配置がこれを下回っている自治体もあります。1人が100世帯以上を受け持てば、1世帯にかけられる時間はそれだけ短くなります。
これは対応を正当化する理由にはなりません。時間がないことと、申請権を制限してよいことは別だからです。ただ、相手に余裕がないかもしれないという前提を持っておくと、こちらの準備の仕方が変わります。短時間で用件が伝わる形にして行くことが、結果的にいちばん効きます。
窓口へ行く前に、決めておくこと
用件を1文で言えるようにしておいてください。「生活保護の申請に来ました。申請書をください」。これだけです。事情の説明はその後で構いません。最初に相談の形で話し始めると、相談のまま終わることがあります。
持ち物は、身分を示せるもの、預金通帳、家賃や光熱費が分かるもの、診断書などがあればそれ。そろっていなくても申請はできますが、あればその日のうちに話が進みます。あわせて、メモを取れるものを持っていってください。
断られたときに、その場でできる4つのこと
1. 「申請します」と口に出して伝える
相談と申請は別のものです。「相談に来ました」ではなく「申請に来ました。申請書をください」と伝えてください。言葉ひとつで、窓口での扱いが変わることがあります。
申請書を渡してもらえない場合でも、申請の意思をはっきり示したという事実は残ります。日時と、対応した方の氏名を控えておいてください。
2. 断る理由を、書面で示してもらうよう求める
生活保護法 第24条は、申請に対する決定を書面で通知し、却下する場合は理由を付すことを定めています。口頭で断られただけの状態は、法律が想定している形ではありません。
「受け付けられない理由を書面でいただけますか」と求めてください。書面を出すとなれば、その理由が条文に照らして説明できるものかどうかが問われます。この一言が、対応を変えることがあります。
3. 一人で行かない
申請には同行してもらうことができます。家族でも、知人でも、支援にあたっている人でもかまいません。第三者が同席しているだけで、やりとりが記録される前提になり、対応が変わることがあります。
誰に頼めるかは申請に同行できる人に、相談先の探し方は生活保護の相談窓口一覧にまとめています。
4. やりとりを記録する
いつ、どの窓口で、誰に、何を言われたか。メモで十分です。後から相談したり、不服を申し立てたりするときに、この記録が根拠になります。
窓口の組織がどうなっているかを知っておくと、誰に話せばよいかの見当がつきます。福祉事務所の役割と組織体制をご覧ください。
それでも進まないときの次の一手
その場で解決しない場合、外に相談先があります。
| 相談先 | できること |
|---|---|
| 都道府県の生活保護担当課 | 市や区の福祉事務所を指導する立場にある。窓口対応についての相談ができる |
| 別の日に、別の職員に相談する | 対応は職員によって差が出ることがある |
| 弁護士・司法書士 | 費用の負担が難しい場合に使える公的な支援制度もある |
このなかで効きやすいのは、都道府県の生活保護担当課への相談です。市や区の福祉事務所は、都道府県から指導や監査を受ける立場にあります。窓口でのやりとりを記録に残したうえで「いつ、どこで、こう言われて申請書を受け取ってもらえなかった」と具体的に伝えてください。
伝えるときは、感情ではなく事実を時系列で並べるほうが伝わります。「ひどい対応をされた」より「9月◯日の午前、◯◯福祉事務所で、申請書をくださいと伝えたが渡してもらえなかった」のほうが、相手も確認して動けます。3の「一人で行かない」と4の「記録する」が、ここで効いてきます。
申請が受理され、却下されたのなら審査請求ができる
ここは区別が必要です。審査請求は「処分」に対して行う手続きなので、申請が受理されて却下の決定が出た場合に使えます。窓口で申請書を受け取ってもらえなかった段階では、まだ処分が存在しません。
だからこそ、まず申請を受理してもらうことが重要です。受理されて却下されたなら、そこからは制度に乗った争い方ができます。期限は、処分を知った日の翌日から起算して3か月です。手続きは申請が却下されたときの審査請求の記事にまとめています。
なお、窓口での扱いに人としての尊厳を損なうものがあった場合の考え方は、不当な扱いを受けたときの対処法で整理しています。
すべての窓口がこうした対応をするわけではありません。多くの職員は制度に沿って対応しています。この記事は、うまくいかなかった場合に何ができるかを整理したものであり、窓口を疑ってかかることを勧めるものではありません。
なお、窓口で断られた経験があると、次に行くこと自体が重くなります。別の日に、別の職員が対応することで話が進む例もあります。同じ窓口でも一度で決まるとは限らないので、一度の結果で結論を出さないでください。
よくある質問
- Q窓口で申請書をもらえませんでした。これは違法ですか?
- A
個別の事案が違法かどうかは事情によります。ただし厚生労働省は事務連絡で「申請権を侵害しないことはもとより、侵害していると疑われるような行為も厳に慎むべきである」と示しています。申請の意思を明確に伝え、断る理由を書面で求めてください。
- Q「家族に相談してから」と言われました。従う必要がありますか?
- A
親族の扶養は保護の要件ではありません。厚生労働省の事務連絡も、扶養照会を申請の前提条件としないこと、扶養が要件であるかのように説明することは不適切であることを示しています。
- Q書類がそろっていないと申請できませんか?
- A
生活保護法 第24条第1項は申請書の提出を原則としつつ、「当該申請書を作成することができない特別の事情があるときは、この限りでない」というただし書きを置いています。書類が理由で申請を受け付けないことはできません。
- Q車を持っていると申請できませんか?
- A
持っているだけで申請できないわけではありません。厚生労働省の事務連絡は、通勤用の自動車について保護開始から概ね1年を目途に保有を認めることを示しています。個別の事情によるため、窓口で相談してください。
- Q窓口で断られた場合、審査請求できますか?
- A
審査請求は「処分」に対して行う手続きです。申請が受理されて却下の決定が出た場合に使えます。申請書を受け取ってもらえなかった段階ではまだ処分がないため、まず申請を受理してもらうことが先になります。
- Q相談と申請は違うのですか?
- A
違います。生活保護法 第7条は「申請に基いて開始する」と定めており、申請があって初めて決定の手続きが始まります。窓口では「申請に来ました」と明確に伝えてください。
- Q生活困窮者の相談窓口へ行くよう言われました。先にそちらへ行くべきですか?
- A
そちらへ行くことが生活保護の申請の条件になるわけではありません。並行して相談することもできます。事務連絡も両者の密接な連携を求めています。
まとめ — 覚えておくのは「申請します」の一言
- 保護は申請に基いて開始する(生活保護法 第7条)。受けられるかどうかは申請した後に決まる
- 申請書を作成できない特別の事情があるときは、それを理由に受け付けないことはできない(同 第24条第1項ただし書き)
- 厚生労働省は「申請権を侵害していると疑われるような行為も厳に慎むべき」と示している
- 扶養照会・施設入所・持ち家の処分は、いずれも申請の前提条件にしてはならない
- 断られたら、申請の意思を口に出す・理由を書面で求める・一人で行かない・記録する
窓口でのやりとりは、緊張する場面です。準備せずに行くと、その場の空気に流されてしまうことがあります。「申請に来ました。申請書をください」。この一言を先に決めておくだけでも、結果が変わることがあります。
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