「生活保護を受けるのは、恥ずかしいことだと思う」。そう感じて、申請そのものをためらう方がいます。食べるものを切り詰めながら、それでも窓口に行けないまま時間が過ぎてしまう。そういう話は、けっして珍しいものではありません。
その気持ちの背景にあるのが、生活保護への社会的な偏見です。「働かずに楽をしている」「不正受給ばかり」といったイメージが、制度を使うことへのためらいを生みます。けれども、そのイメージの中身を厚生労働省の統計で確かめてみると、実態とはかなり違うことが分かります。
この記事では、よく言われる偏見を3つ取り上げ、それぞれを公表されている数字と法律の条文で確かめていきます。そのうえで、周囲に知られるのが不安なときに実際どうなるのか、制度の仕組みから説明します。制度そのものの中身は、生活保護とは何かを解説した記事にまとめています。
「恥ずかしい」と感じてしまうのは、あなただけではない
ある制度や状態に対して、社会が否定的な評価を貼りつけることをスティグマといいます。もともとは「しるし」「烙印」を意味する言葉です。
生活保護におけるスティグマは、二重に働きます。ひとつは、周囲からの目。もうひとつは、自分で自分に貼ってしまうしるしです。後者のほうが、実際には強く作用することがあります。誰にも何も言われていないのに、「自分は人に迷惑をかけている」と感じて申請できない。そういう形で現れます。
法律は、まったく逆のことを定めている
まず押さえておきたいのは、制度の側は「恥ずかしいこと」という前提を1ミリも置いていないという点です。
日本国憲法 第25条第1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めています。生活保護法は、この条文を受けて作られた法律です。そして同法 第2条は、こう書いています。
すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。
「要件を満たす限り、受けることができる」。国が選んで恵むのではなく、条件に当てはまれば受けられる、という書き方です。この条文の背景にある考え方は、生活保護法の4つの原理と4つの原則で詳しく解説しています。
「税金で生活している」ことを負い目に感じる方がいます。ただ、社会保険も、義務教育も、公立病院も、道路も、同じように税や保険料で支えられています。生活保護だけが特別な仕組みというわけではありません。
数字で見ると、イメージと実態はかなり違う
厚生労働省の「被保護者調査」は、毎月の受給状況を公表しています。令和8年(2026年)5月分の概数では、生活保護を受けている人は全国で1,970,237人、世帯数は1,641,803世帯でした。人口に対する割合(保護率)は1.60%です。
注目していただきたいのは、その内訳です。
| 世帯の種類 | 世帯数 | 割合 |
|---|---|---|
| 高齢者世帯 | 903,908 | 55.3% |
| 障害者世帯・傷病者世帯 | 416,045 | 25.5% |
| その他の世帯 | 258,447 | 15.8% |
| 母子世帯 | 54,975 | 3.4% |
高齢者世帯と、障害や病気を抱えた世帯だけで、全体のおよそ8割を占めています。年金だけでは暮らせなくなった高齢の方と、病気やけがで働けなくなった方が、この制度の利用者の中心です。高齢者が生活保護を受ける場合は年金との関係が問題になりますが、それも制度の想定内です。
もうひとつ。受給者数は減っています。令和8年5月の人数は前年の同じ月より20,624人少なく、1.0%の減少です。「増え続けている」というイメージも、直近の数字とは合いません。制度がどう変わってきたかは、生活保護制度の歴史でたどっています。
保護率1.60%という数字も、置き換えてみると印象が変わります。100人に1.6人、およそ63人に1人という割合です。学校のひとクラス、あるいは小さな職場を思い浮かべたときに、そこに1人いてもおかしくない規模ということになります。「ごく一部の特別な人たちの制度」という感覚とは、だいぶ違うはずです。
なお、ここで使っている数字は「概数」です。被保護者調査は毎月の速報を概数として公表し、年度ごとに確定値をあらためて公表します。月ごとの数字は後から少し動くことがあるため、この記事では「何年何月分の概数か」を明記しています。
受給者数が長い目で見てどう動いてきたか、世帯の種類ごとにどう変わっているかは、生活保護の受給者数は約197万人で詳しく読み解いています。
よく言われる3つの偏見を、事実で確かめる
偏見1「働けるのに働かない人ばかり」
上の表のとおり、高齢者世帯が55.3%、障害者世帯・傷病者世帯が25.5%です。この2つで8割を超えます。残る「その他の世帯」が15.8%、母子世帯が3.4%です。
「その他の世帯」には現役世代も含まれますが、そこにも失業中の方、求職中の方、働いていても収入が最低生活費に届かない方が含まれます。生活保護は、働いていても受けられます。収入が最低生活費に足りない分だけが支給される仕組みだからです。働きながら受給する場合の扱いは、受給中にできること・できないことにまとめています。
「その他の世帯」という分類名は、中身が見えにくい言葉です。ここに入るのは、高齢・障害・傷病・母子のどれにも当てはまらない世帯で、事情はさまざまです。勤め先の倒産や契約の終了で収入が途絶えた方、家族の介護のために働けなくなった方、住まいを失って生活を立て直している途中の方などが含まれます。
つまり「その他」は「理由がない」という意味ではなく、統計の分類に収まりきらないだけです。そしてこの層は、事情が変われば受給を終えていく層でもあります。借金がある場合の扱いのように、個別の事情ごとに判断される仕組みになっています。
偏見2「不正受給だらけ」
不正受給については、厚生労働省が社会保障審議会に出した資料に数字があります。令和2年度の不正受給は次のとおりでした。
| 件数 | 32,090件 |
| 金額 | 12,646,593千円(約126億円) |
| 1件あたりの金額 | 394千円 |
同じ令和2年度の生活保護費負担金は35,258億円です。金額でみると、不正受給は全体の0.4%にも届きません。
そして、中身がもっと大切です。同じ資料は、不正受給とされたものの内訳をこう示しています。
| 内容 | 割合 |
|---|---|
| 働いて得た収入を申告していなかった | 49.5% |
| 年金などを申告していなかった | 17.7% |
| 働いて得た収入を少なく申告していた | 11.1% |
| 保険金を申告していなかった | 2.4% |
| 預貯金を申告していなかった | 1.2% |
上位3つはいずれも「申告に関するもの」で、合わせて約8割を占めます。制度を偽って受け取ろうとしたケースばかりではなく、申告のもれや申告額の間違いが多くを占めるということです。もちろん申告は必要ですが、「不正受給だらけ」という言葉が呼び起こすイメージとは、中身がかなり違います。
偏見3「一度受けたら抜けられない」
生活保護法 第1条は、この法律の目的をこう定めています。
この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
「最低限度の生活を保障する」ことと並んで、「自立を助長する」が目的として書かれています。使い続けることを前提にした制度ではなく、立て直すまでのあいだ支える仕組みとして設計されています。就労に向けた支援や、進学のための給付金が用意されているのも、この目的にもとづくものです。
収入が回復して最低生活費を上回れば、保護は終わります。そして、必要になればまた申請できます。一度受けたことが、次の申請の妨げになることはありません。
「自分がそもそも対象になるのか」「受けられるとしたらいくらなのか」が分からないまま、漠然とした不安だけが残っている方も多いと思います。まず金額の目安を知ると、話が具体的になります。
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周囲に知られるのが不安なとき、実際どうなるのか
「近所に知られたらどうしよう」「職場にばれないか」という不安は、申請をためらう大きな理由のひとつです。実際の仕組みを整理します。
窓口の職員には、法律上の守秘義務がある
福祉事務所の職員は地方公務員です。地方公務員法 第34条第1項は、こう定めています。
職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。
「その職を退いた後も」と書かれているとおり、退職した後まで続く義務です。窓口で話した内容が、近所や職場に伝わる仕組みにはなっていません。窓口がどういう組織なのかは、福祉事務所の役割にまとめています。
家族への連絡(扶養照会)は、いまは慎重に扱われる
親や兄弟に連絡がいくのではないか、という心配は多くの方が持ちます。この扶養照会は、現在は本人の意向を確かめたうえで慎重に扱う運用へと変わっています。連絡を控えてもらえるケースもあります。対象になる親族の範囲と、控えてもらえる場合については、扶養照会の対象になる親族の範囲で詳しく解説しています。
見た目で分かるものではない
生活保護を受けていることを外から見分ける印はありません。支給は口座振込か窓口での受け取りで、住まいも一般の賃貸住宅です。医療扶助で病院にかかる場合も、窓口でのやりとりで完結します。
お子さんがいる場合、学校に知られるのではないかと心配される方もいます。学用品費や給食費は教育扶助の対象になり、事務にかかわる人にも守秘義務があります。ほかの保護者に知らされる仕組みにはなっていません。
住まいについては、むしろ受給していることを伝えたうえで部屋を探すほうが、話が早く進むことが多いです。家賃の上限が決まっており、代理納付という仕組みを使えば家賃が自治体から直接支払われるため、貸す側にとって条件がはっきりするからです。
部屋探しそのものが不安な場合は、審査に落ちる主な理由と通りやすくするコツを生活保護の賃貸審査で、不動産会社に断られたときの理由と相談先を不動産会社に断られた時の対処法で解説しています。
それでも気持ちが晴れないときに、できること
数字や条文を知っても、気持ちがすぐ切り替わるわけではありません。それは自然なことです。そのうえで、いくつかできることがあります。
一人で窓口に行かなくてよい
申請には同行してもらうことができます。家族でも、知人でも、支援にあたっている人でもかまいません。一人で説明するのが不安なときは、申請に同行できる人を確認してみてください。どこに相談すればよいか分からない場合は、生活保護の相談窓口一覧から探せます。
「一時的に使う仕組み」として見る
生活保護法 第1条が「自立を助長する」を目的に掲げていることは、先に見たとおりです。制度の側が、終わりのあるものとして設計しているということです。いま使うかどうかは、生き方の評価ではなく、いまの状況に対する手当ての選び方です。
不当な扱いを受けたときは、申し立てられる
窓口や周囲から、事実と違う扱いや失礼な言い方をされることが、ないとは言えません。そういう場合に何ができるかは、不当な扱いを受けたときの対処法にまとめています。申請を断られた場合には、審査請求という手続きも用意されています。
家族や知人から相談されたとき
この記事を、ご本人ではなく周りの方が読んでいることもあると思います。親や子、きょうだい、友人から生活の相談を受けて、どう答えたらよいか迷っている場合です。
そのときに効くのは、励ましよりも具体的な情報と、一緒に動くことだと思います。「生活保護という制度がある」と伝えるだけでは、ためらいは消えません。窓口がどこかを一緒に調べる、申請の日に付き添う、必要な書類を一緒に確認する。そうした具体的な行動のほうが、ためらいを越える助けになります。
また、扶養照会の連絡を受け取る側になることもあります。連絡が来たからといって、扶養を強制されるわけではありません。できる範囲を答えればよく、できないと答えることもできます。ここで「迷惑をかけられた」という反応をしないことが、本人が制度を使い続けられるかどうかを左右します。
眠れない、食べられない、気持ちが落ち込んだ状態が続いているといったことがあれば、生活の立て直しと並行して、医療機関や自治体の相談窓口に話してみてください。生活保護を受けている場合、医療費は医療扶助の対象になります。
よくある質問
- Q生活保護を受けている人のうち、高齢者はどのくらいですか?
- A
厚生労働省「被保護者調査」令和8年5月分の概数で、高齢者世帯が55.3%です。障害者世帯・傷病者世帯の25.5%を合わせると、8割を超えます。
- Q不正受給はどのくらいあるのですか?
- A
厚生労働省の資料によると、令和2年度で32,090件・約126億円でした。同じ年度の生活保護費負担金は35,258億円で、金額では全体の0.4%にも届きません。内訳は収入や年金の申告に関するものが約8割を占めます。
- Q働いていても生活保護は受けられますか?
- A
受けられます。収入が最低生活費に足りない場合、その不足分が支給される仕組みです。働くことが受給の妨げになることはありません。
- Q近所や職場に知られることはありますか?
- A
福祉事務所の職員には地方公務員法 第34条第1項による守秘義務があり、退職後も続きます。窓口で話した内容が近所や職場へ伝わる仕組みにはなっていません。
- Q一度生活保護を受けると、抜けられなくなりますか?
- A
そうではありません。生活保護法 第1条は「自立を助長する」ことを目的に掲げており、収入が回復して最低生活費を上回れば保護は終わります。必要になればまた申請できます。
- Q生活保護を受けている人は増え続けているのですか?
- A
直近では減っています。令和8年5月分の概数で1,970,237人となり、前年の同じ月より20,624人(1.0%)少なくなりました。
- Q申請するとき、一人で窓口に行かなければなりませんか?
- A
同行してもらえます。家族・知人・支援にあたっている人など、付き添う人に決まりはありません。
- Q生活保護を受けていることは、見た目や持ち物で分かりますか?
- A
外から見分ける印はありません。支給は口座振込か窓口での受け取りで、住まいも一般の賃貸住宅です。
まとめ — 判断の材料は、イメージではなく数字と条文にある
この記事で確かめたことを整理します。
- 生活保護法 第2条は「要件を満たす限り、無差別平等に受けることができる」と定めている
- 受給世帯の55.3%が高齢者世帯、25.5%が障害者世帯・傷病者世帯。合わせて8割を超える
- 不正受給は令和2年度で約126億円。金額では全体の0.4%にも届かず、内訳の約8割は申告に関するもの
- 生活保護法 第1条は「自立を助長する」を目的に掲げている。終わりのある仕組みとして設計されている
- 福祉事務所の職員には、退職後も続く守秘義務がある
気持ちの問題は、数字だけで片づくものではありません。それでも、判断の材料が事実にもとづいているかどうかは、選べることです。「恥ずかしいから使わない」という判断が、実態とは違うイメージにもとづいているとしたら、それは惜しいことだと思います。
迷っているあいだにも、生活は続きます。まず窓口で相談してみる、あるいは金額の目安を確かめてみる。そこから始めていただければと思います。
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